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23/24シーズン 欧州ユニフォームの世界 | サッカーユニフォーム研究家ともさん

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text by Tomo-san

 多くのファンにとって、オフシーズン、移籍話と肩を並べて待ち遠しいのが、新ユニフォームの発表ではないでしょうか。今では、ファッションとしても楽しまれているサッカーユニフォーム。街を見渡すと、普段着としてサッカーユニフォームを着ている人が年々増えているような気もします。また、単にデザイン性の高いユニフォームを発表するだけでなく、新ユニフォームの情報をあえて事前に漏らし、話題性を高めたり、社会貢献の一環としてユニフォームを販売するなど、ユニフォームを作る目的や発表方法においても各クラブが注力しています。ここでは、「23/24シーズン欧州ユニフォームの世界」と題して、サッカーユニフォーム研究家のともさんが厳選した一押しのユニフォームをテーマごとに紹介します。

【社会貢献ユニフォーム】ASモナコ 2023/2024 3rdユニフォーム kappa製

 南野拓実選手所属のASモナコの3rdユニフォームは地中海の青とリビエラ海岸線の白を表す美しいデザイン。これはモナコ海洋研究所とのコラボレーションで、海洋世界の脆弱性とその生物多様性の保護に対する意識向上を促すもの。ユニフォームの売り上げ1枚につき5ユーロを海洋研究所に寄付する。もちろんこのユニフォームは100%リサイクルポリエステルによって作られている。企画の成り立ちも素晴らしいが、このユニフォームは何よりグラフィックが素晴らしく美しい。企画趣旨がわからずとも、その美しさ、かっこよさで欲しくなるもので、意味と見た目を両立させた逸品だと思う。

【ファッション性】ACミラン 2023/2024 2ndユニフォーム Puma製 

 サッカーの伝統とファッションがさりげなく融合されたデザイン。ミランにおける白ユニフォームは欧州カップ戦の決勝戦など重要な試合に重用する伝統あるもの。その伝統とファッション性を融合させている。モデルに選手を使いつつ、オフピッチの着こなしを提案しているのもファッション路線を促す特徴ではないかと。エンブレムを貫く赤黒の縦ストライプは2011/12の再現でありながら、エンブレムやブランドロゴ、スポンサーも抑えめのトーンにする等、単色仕様にすることによって、よりタウンユースを意識したデザインとなっている。過去のデザインのトリビュートをしつつ、今年のテーマ「伝統×ファッション」を体現する素晴らしいデザインではないかと思う。

【ブランディング】ヴェネツィア 2023/24各ユニフォーム kappa製

 2022/2023シーズンよりヴェネツィアのユニフォームは世界中から注目を集めるようになる。その要因はBUREEAU BORSCHEデザインスタジオが手がけるユニフォームデザインやブランディングが素晴らしいから。BUREEAU BORSCHEは2021/2022からヴェネツィアのブランディング変更にともなうエンブレムをデザインしている。シンプルでありながら独創的で切れ味の良いデザインが世界中で評価を集めている。そしてモデルを使ったハイクラスファッション誌を思わせる撮影画像が既存のサッカー界に新しい価値観を持ち込んだ。BUREEAU BORSCHEはブランディングによって、セリエBにいながら世界中から注目を集めることになったヴェネツィアから目が離せない。

【社会貢献ユニフォーム】MLS共通プレマッチトップ adidas製

 MLSの小児がん撲滅キャンペーンの全クラブ共通プレマッチトップを着用。この企画ではアメリカにおける小児がんの研究と治療に対する意識を高め、資金を集めることを目的としている。2023シーズンで10回目の企画である。今年はMARVELとのコラボでスーパーヒーローがモチーフとなったデザイン。この企画の売り上げからMLSとコンチネンタルタイヤ(企画スポンサー)は、Children’s Oncology Group (COG) に 10 万ドル以上を寄付することを約束している。社会貢献に使われるユニフォームの好例ではないかと、毎回感心させられる。 

【プレマッチとの対比】エンポリ 2023/24ホーム&アウェイ、プレマッチトップ kappa製

 セリエAのエンポリのユニフォームとプレマッチトップの対照的な関係が面白い。 試合で使われるホーム(青)とアウェイ(白)のユニフォームは無地ベースで非常にシンプルなもの。この試合用もエンブレムをセンターに配置し、下地の色に映える スポンサーロゴでとても素晴らしいデザイン。それに対してプレマッチトップの派手さときたら驚かされる。EMPOLIのアルファベットをランダムにそしてカラフルなベースカラーで表現。イタリアらしいとも言えるカジュアルな雰囲気を出している。シックな試合用とカジュアルなプレマッチトップとの対比が面白い。  

【市販品をかっこよく】グルノーブル・フット 38 2023/24 Nike製 

 かつて日本人選手も多く在籍したフランス・リーグ2に所属するグルノーブル・フット38の23/24ユニフォームはNikeの市販チーム オーダー商材を使いながらも、秀逸なマーキングで市販品とは思わせないかっこよさがある。ブルーのホーム用は『Nike Dri-fit Trophy V』(日本未発表品)、ホワイトのアウェイ用は『Nike Prak VII』を使用していると思われる。ホームタウンから見えるアルプス山脈を表したデザインは無地のシャツに。このアルプスデザインは公式ウェブサイトでも随所に採用されており、シーズンのテーマデザインとなっている模様。オリジナルデザインでなくてもクラブのアイデンティティを盛り込むことができる、工夫とアイデアでクラブの低予算をカバーしている好例ではないだろうか。

【サプライヤー100周年記念】サウサンプトン、エバートン、ブレーメン、サンテティエンヌなど hummel製

 hummelの創設100周年を記念して、サプライヤー契約を結ぶ各クラブがhummelの最もアイコニックなデザインを採用している。デンマーク代表の1986年、通称”ハーフ&ハーフ”モデルである。デンマーク代表が初出場した1986年W杯では予選グループを三戦全勝で勝ち進み、ラウンド16でスペインに敗れたものの、果敢に攻める攻撃的なスタイルから「デニッシュ・ダイナマイト」と呼ばれ、賞賛された。その時のユニフォームデザインである。アイコニックなデザインを復刻させ、サプライヤーの100周年記念をお祝いする企画として面白い。

【伝統的デザインにどう手を加えるか】レアル・ソシエダ 2023/24ホーム Macron製

 久保建英所属のレアル・ソシエダのホームユニフォーム。ソシエダは伝統的に青と白のストライプデザインが採用されてい るが、23/24ユニフォームでは彫刻的な形状を再現し、陰影のあるグラフィックとなった。バルセロナやACミランもそうだが、どのクラブの象徴になっている伝統的なストライプデザインを、毎年どのように表現するのかとても興味深いが、今シーズンは3D効果を狙ったものを採用。伝統的デザインにどう手を加えるか、というヒントになり得るチャレンジだったのではないだろうか。

【ちょっとしたあしらいの素晴らしさ】インテル 2023/2024 2ndユニフォーム Nike製

 テーマは「Never Away」。どこに行ってもインテルの家であり仲間である。青黒のたすき掛けはクラブの伝統的なもので過去に何度も使われているが、今年は胸中央部をデジタルグラフィックでグラデーションにしている。このちょっとしたあしらいが伝統的デザインを一気に現代風にしている。

【記念ユニフォーム】セルティック 2023記念ユニフォーム adidas製

 セルティックといえは横縞。このクラブを象徴する緑と白の横縞模様”Hoops”が採用されてから120周年を祝う記念ユニフォーム。当時のデザインを再現するためエンブレム、ブランドロゴ、スリーストライプは下地と同色にして目立たなくし、かつ胸スポンサーはなしバージョンでの販売。120年前はブランドロゴやスポンサーがなかったことを忠実に再現するクラブやブランドの懐の深さに感心する。ユニフォームを使ってクラブの歴史、栄光の数々を改めて世界にアピールするという好例。

【オールドスタイルの最高傑作】レアル・ベティス 2023/24アウェイ hummel製

 レアル・ベティスのアウェイユニフォームは、80年代後半のhummelのユニフォームをほとんどそのまま復刻したデザイン。シェブロン型の細やかなジャガードと大ぶりな襟+Vネックがノスタルジーを呼び起こす。特に昇華プリント技術が高くなった現代では見ることが少なくなったジャガードがとても良い。

【3rdユニは別エンブレムで】マンチェスター・U、アーセナル、バイエルン adidas製 

 今シーズンが初めてではないが、このビッグクラブたちがこぞっ て仕掛けてきたのは、3rdユニフォームだけ本来とは違うエンブレムを使うという施策だ。ユナイテッドのエンブレムに赤い悪魔が登場したのは1973年から。その50周年を祝うべくユニフォームのエンブレムはレッドデビルだけを配置。アーセナルはグリーンxネイビーxオフホワイトの配色は1982/83シーズン(umbro時代)の復刻で、80年代を彷彿させるレトロスタイルへ。バイエルンは1920年代から50年代にかけて使われていた古いエンブレムを採用している。それぞれのデザインテーマがあるものの、共通するのは過去へのオマージュ。そして長い歴史とクラブのブランドがあるからこそ、試合用ユニフォームで他エンブレムを試せるという強みがあるのではないだろうか。

【計算された発表のタイミングが秀逸】マンチェスター・シティ 2023/24 3rd Puma製

 エレクトリックな柄は電光石火のプレースタイルとマンチェスターの賑やかな雰囲気を表現。その独特なデザインもさることながら、その見せ方、発表のタイミングが面白い。このユニフォームの発表タイミングがちょうど日本ツアーで東京に来ているときで、X(Twitter)では東京の夜の街の雰囲気を打ち出した内容となっている。コロナ後で欧州人の”エキゾチックジャパン”の観光意欲を煽るものとなったのではないだろうか。

まとめ

<2023/2024シーズン見せ方の特徴>
・どのクラブも写真の見せ方が上手。
・最近の傾向では男女で写る(選手を使う場合もあればモデルを使うこともある)。
・さらに特徴的なのはそのスタイリング。
・モデルに選手を使うが、タウンユースを促すような私服との連動が見られる。
・これまではピッチ上でのユニフォーム姿こそ最大の効果があると思ってきたが、実際にファンが使うシチュエーションを想像させるかのような写真が多く見られる。

PROFILE

ともさん
ともさん
サッカーユニフォーム研究家。サッカーユニフォームを通じて日本でのサッカーの認知向上、サッカー文化の醸成を目指し、「サッカーユニフォームの世界」という屋号で活動中。世界中のあらゆるサッカーユニフォームを研究し、日々SNSにて情報発信をしている。フリーランスでサッカーユニフォームデザインも行っている。X: @olaroupeiro

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