国を問わずに応援されていたなでしこジャパン
7月20日からオーストラリアとニュージーランドで行なわれていたFIFA女子ワールドカップが、幕を閉じた。
3大会ぶりの優勝を目指したなでしこジャパンは、予選リーグを3戦無敗、無失点で勝ちあがり、優勝候補として世界から注目が高まっていたが、準々決勝でスウェーデンを相手に1-2で敗戦。なでしこジャパンはベスト8で敗退となった。
しかし、結果にかかわらず、国を超えて熱狂させたなでしこジャパンの試合の素晴らしさは、決して色あせない。会場には、さまざまな国の人たちが日本の旗を身につけ、試合中に沸き起こる「ニッポンコール」には、明らかに日本人だけではない声が混ざっていた。
今大会のなでしこジャパンは、なぜここまで世界中の観客を惹きつけたのか。そこには、これからの日本女子サッカーを盛り上げるためのヒントが隠されているに違いない。
「チームのために」躍動する選手たち
日本代表が国を問わず応援されていた理由の一つに、選手たちのチームに対する献身的な姿があげられる。
予選リーグでは、出場国の中で90分あたりで最も多いゴール数、最も多くのアシスト、そして最も長い走行距離を記録していたのが、なでしこジャパンだった。どこの国よりも走り、どこの国よりも得点シーンを演出する。その闘い方に感銘を受けた人も多いだろう。
その献身的な姿勢は、選手たちの考えやプレー以外の行動にも現れた。
昨シーズン、カップ戦、リーグ戦、皇后杯での得点王三冠を達成した植木理子は、今大会、2得点を決めていたものの、スペイン戦を除いて先発出場はない。予選の2戦目や、決勝トーナメントのスウェーデン戦ではチャンスをものにすることが出来ず、ピッチ上で悔しい表情をみせた。
それでも植木は大会中「今はとにかく、チームのためにというのを考えている」と繰り返していた。選手である以上、個人として葛藤を抱えることはある。それでもチームに焦点を当て続けることで、勝利した際には結果的に喜びの方が勝っていたのだという。
「自分が試合に出ていないときや、上手くいかないときの悔しさはあっても、チームが上手くいったときには、それも忘れた。味方がゴールを決めた瞬間にあれだけ素で喜べるのは、個人としてもチームとしても、めちゃくちゃいい状態だったと思う」
決勝トーナメント1回戦でも、ベンチスタートを切った植木。それでも、清水がゴール前まで駆け上がり勝ち越しゴールを決めた後半5分。ピッチの外で両手を広げ、何度もガッツポーズを繰り出す植木の姿があった。
また、ゴールを決めた後に得点者がベンチに向かって走ってくる光景は、なでしこジャパンの象徴的な場面だったと言える。両手を広げて迎え、喜びを分かち合う控え選手たちの姿は、今大会何度も目にしてきただろう。
加えて、彼女たちが作り出していた一体感は、選手間にとどまらない。決勝トーナメントに進出した後からは、ベンチで喜び合う光景に続きが見られた。
得点者を祝福した後に、控え選手たちが笑顔で観客席を振り返ると、GKの田中や、W杯メンバーの中では最年少の浜野が、メインスタンドの観客に向かってこぶしを振り上げたのだ。彼女たちが振り上げたこぶしに応えるように、スタンドはさらに歓喜に沸いた。
観客までも巻き込み、試合を作っていくことで、一体感はスタジアム全体に広がっていた。それは、会場にいない人にまで届いていたのではないだろうか。
チーム全体の「一体感」が観客を魅了させた
何よりも、W杯の舞台で選手たちが楽しそうに過ごしていた姿は、みている人を魅了した。
勝利が決まった瞬間にベンチの選手がピッチに駆け込むと、輪になって喜ぶ選手たち。そこには、ユニフォーム姿の選手とベンチコートを着た選手たち、スタッフが笑顔で入り乱れていた。
また、試合後に出場機会の少なかった選手たちがダッシュを入れる際も、明るい表情で長い距離を走り抜けていた。試合後に恒例となっている集合写真を撮るのは、出場チーム中、日本のみ。他の国と一線を画するまとまりの良さが、そういった面からもうかがえた。
チームのことを第一に考える献身さ、自分たちだけにとどまらず、観客までも巻き込む雰囲気。そしてまずは自分たちが心からサッカーを、この舞台を楽しんでいたなでしこジャパン。
なでしこジャパンが今大会でみせた姿は、世界中多くの人たちの記憶に残っただろう。
結果以上のものをみせてくれた選手たちが、これからも日本の女子サッカーを盛り上げていくに違いない。