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“自分史上最速”を目指して──PRE Fast Track Club 第2期 Day2 powered by NIKE & STEP SPORTS

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

“準備”の深化。風の中で始まったPRE Day2

6月23日夕方、梅雨らしくない風が心地よく吹き抜けるスピアーズえどりくフィールドで、PRE Fast Track Club(プリファーストトラッククラブ)──通称「プリ」──の第2期2回目となるトレーニングが開催された。

1週間前に開催された初回に比べて緊張感がほぐれた選手たちが、笑顔で再びこの場に集まってくる。STEP SPORTSの“イッチー”こと市川寛人さんの出迎えに、選手たちは元気に挨拶を返し、1週間ぶりの再会に喜びを隠せない様子だ。

イッチーさんの紹介で、この日のメインコーチを務める東海大学陸上競技部中長距離ブロック駅伝監督を務める両角速氏がマイクを握る。

「皆さんこんにちは!元気がないね、こんにちは!」

第95回箱根駅伝で東海大を初優勝に導いた名将の登場に、選手たちの表情が引き締まる。

「皆さん、あの横断幕が見えますか?“自分史上最速のレースに向けて準備はいいか”と、このプロジェクトのテーマが書かれていますが、君たちは短い距離ではなく、長い距離を速く走れるようにならなきゃいけないわけだ。

前回はスピードに特化したトレーニングだったけど、今日は“長い距離”に焦点を当ててトレーニングをします。スピードがあるのは素晴らしいこと。でも、持久力がないと、それを活かしきれない。今日のテーマは、長い距離を速く走れるようになることです。強い選手というのは、後半でも崩れない。だからこそ今日のようなペース走が必要になります」

6000mペース走──長い距離を“速く”走る

設定されたメニューは、各選手の目標タイムに応じてグループ分けされた6000mペース走。400mトラックを基準タイムで4周走り、1周リカバリー。その5周を3セットだ。

Aチーム:3分30秒/km(84秒/400m)
Bチーム:3分45秒/km(90秒/400m)
Cチーム:4分00秒/km(96秒/400m)
Dチーム(女子):4分15秒/km(102秒/400m)

「3分30秒で走るなら、1周84秒。そのペースで、しっかり3本走り切ることが目標です。途中できつくなっても、崩れずに“自分のペース”を守る。これが勝負の世界では一番大事なこと」

両角監督は、大迫傑も指導した佐久長聖高校指導時代のエピソードも交えながら説明する。

「僕が高校で教えていたときは、だいたい12キロのペース走を基準にしていました。でも今日はこの暑さですし、いきなりは難しいから6キロから。それでも、全員がやり切ったら本当にすごいことだと思う」

また、この日のサブテーマに設定された“仲間”の存在について次のように語る。

「今日は、横に座っている仲間の“いいところ”を2つ見つけてください。最後にそれを本人に伝えてもらいます」

練習前のこの両角監督の言葉に、選手たちは少し照れたような反応を見せる。

「仲間っていうのはね、ときには自分を奮い立たせる存在なんです。青学や早稲田がいるから、僕たち(東海大)も頑張ろうって思える。だから、ライバルは憎い存在じゃない。君たちも、ここにいる仲間と切磋琢磨してほしい」

崩れず、リズムよく、リラックしたフォームで

ウォームアップとして導入されたのは、東海大学でも実践されているダイナミックストレッチとスプリントドリル。指導するのは、現役大学院生でコーチを務める“シュンコーチ”こと川端駿介氏。細やかにアドバイスの言葉を送りながら、選手たちを牽引していく。

「肩甲骨を動かすと、腕振りが良くなります。内転筋と腸腰筋を意識して、足の振り出しを大きく。走りがスムーズになりますよ」

「前回よりもすごく良くなっています。継続してきた証拠ですね」

続くスプリントドリルでは、無駄なく走ることができるようになる足の動かし方を選手たちに伝授する。

「足を引き上げて“4の字”を描くように。7の字にならないように、美しいフォームを意識して。効率よく、スムーズに」

選手たちは中高生であり、このような基礎的な動きのポイントを一つ一つ言語化しながら指導される経験は、まだほとんどないのではないだろうか。まだ東海大の選手たちほどスムーズに体を動かすことはできていないが、何とかものにしようと、真剣に取り組んでいる様子が窺える。

午後7時10分。薄暗くなったトラックに、ウェーブライトが点灯する。いよいよメイントレーニングがスタートする。

「前の選手の肩甲骨を見て、真っすぐについていこう」

「無理はしなくていい。でも、崩れないこと。フォームを意識して、6キロを走り切るんだ」

両角監督が選手たちに声をかける。各チームの先頭を走るシュンコーチ、兵藤ジュダ(4年)、鈴木天智(4年)、本村翔太(4年)も、周りの選手を鼓舞しながら引っ張っていく。

1セット目を終えた選手たちの全身から汗が吹き出している。表情から幼さが消え、戦う人間の顔に変わっている。リカバリー中にも、監督からアドバイスの声が飛ぶ。

「リカバリーは100秒ある。しっかり息を整えよう。身体の感覚を整えながら、次の4周に向けて集中しよう」

2セット目がスタート。どのチームもペースライトから遅れることなく、安定した走りで距離を伸ばしていく。

「リズムよくリズムよく走ろう。長距離だからといって、“きつく”走る必要はないよ。いかに一定のペースで余裕を持って長く走り切れるかが大事だよ」(両角監督)

いよいよラストセット。Aチームは途中ペースが乱れるも、3周目に見事なリカバリーを見せた。女子チームは目標ペースを10秒上回ってゴールした。

走り終えた選手たちに、スタンドの保護者とスタッフから大きな拍手が送られる。

“応援される人”に

クールダウンを終えた選手たちがテントに帰ってくる。トレーニング前に監督から伝えられた、“隣の仲間のいいところを2つ見つける”という課題を、実際に発表し合う時間が設けられた。

「『仲間がいたから今日も頑張れた』という部分もきっとあると思います。ライバルから良いところを学んでいくことはとても重要です。向き合って目を見て、相手の良いところを伝えてあげましょう」

続いて、再びノートを取り出し、今日の振り返りを記す時間が設けられた。

「今日に備えてどんな準備をしてきた?その準備を元に、どんなことが今日できた?走りは苦しかった?でも何を乗り越えた?それを全部書いて、次の自分に届けてください」

シュンコーチの言葉に、全員が真剣な表情でノートに向き合う。ノートを書き終えた選手たちにシュンコーチが次のように語りかける。

「前回も“準備”ってことを伝えましたが、今日の練習を見たら、みんなしっかりと準備してきたことが伝わってきて、嬉しくなりました。

学校の部活の先生だったり、ご両親だったり、みんなことをサポートしてくれている人がいるはずです。そういう方に頑張っている姿を見せることはとても大切なことで、頑張っている姿というのは、つまり一生懸命準備をしているということ。それを続けることで、『みんなことをもっと応援したいな』と周りの方は思うはずです。陸上だけでなく、そのほかでも、そういう“応援される人”になっていって欲しいなと思います」

両角監督は最後にこう結んだ。

「本当にびっくりしました。今日のトレーニングの設定を考えれば、半分くらいの選手ができればいいと思って増田。でも、みんな想像以上で、ほとんどの選手が最後までやり切りました。みんな将来性と素質に満ち溢れていると感じます

でも、トレーニングは段階的にやっていかなければなりません。憧れの選手のトレーニングをいきなりやっても、怪我をしたり、無理が続いてトレーニングが面白くなくなったりする可能性もあります。徐々に徐々に成長していく自分を楽しみに、継続してもらえればと思います。

君たちは今日、間違いなく成長しました。来月のタイムトライアルで、自分がどこまでできるか、それを証明してほしいです。そしてその準備を、明日からまた始めてください」

仲間と共に走り、挑戦し、乗り越えた6000m。その一歩は、未来の“自分史上最速”へとつながっているはずだ。

次回は7/14。第2期生にとって最終日のPREとなる。彼らはどんな準備でタイムトライアルを迎え、どんな走りを見せるのか。若きランナーの覚醒を期待したい。

PROFILE

佐藤 麻水(Asami Sato)
佐藤 麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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