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速さの、その手前で──覚醒前夜 “PRE Fast Track Club” 第2期 Day1 powered by NIKE & STEP SPORTS

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photo by Kazuki Okamoto / text by Asami Sato

PRE第2期生25人の“準備”が始まった夕暮れ

6月16日、午後5時半、スピアーズえどりくフィールド。梅雨らしくない猛暑が少し和らいだ夕暮れ時のトラックに、総勢25名の若きランナーたちが姿を見せた。

PRE Fast Track Club(プリファーストトラッククラブ)──通称「プリ」。

中高生の中長距離ランナーを対象に、NIKEとSTEP SPORTSがタッグを組んで展開する特別育成プログラムの第2期が、この日ついに始動。

受付を終え、控え室から出てくいランナーたちは、自身の名前の刺繍が施されたPRE特製ウェアに身を包み、緊張した面持ちでトラック脇のテントに集合。彼らの横には、NIKEの“DRAGONFLY 2”や“STREAKFLY 2”がずらりと並んでいる。

MCを務めるSTEP SPORTS東京フラッグシップストアの“イッチー”こと市川寛人さんの明るい声が場を和ませる。

「皆さん、いまかなり緊張していると思います。緊張をほぐす意味も込めて、隣や後ろに座っている人と自己紹介をしていきましょう」

まずはグループに分かれて自己紹介。それぞれの種目や目標、これまでの陸上エピソードなどを語り合うユニークな時間が設けられた。続いて、“PRE”の由来についてNIKEスタッフが次のように語る。

「全国大会に出たいとか、自己ベストを出したいとか、それぞれの目標や夢があると思います。このPRE Fast Track Club は、そういう目標を達成できるように、皆さんを全力でサポートしたいと思っています。

PREとは、“Prepare(準備する)”と、NIKEと契約した初のスターランナー、スティーブ・プリフォンテーン(通称プリ)にちなんで名付けられました」

彼はわずか15歳で2マイル8分41秒5という記録を打ち立てた。“1km約2分43秒ペースで3.2kmを走る”──その異次元の速さに、選手たちから驚きの声が漏れる。

「彼のように速く走れるようになってほしい、超えていってほしいと思っています。同時に、ランナーとしての彼のマインドセットを皆さんには身につけていって欲しいです。

“一生懸命練習をする”、“レースに向けて、100%の準備をする”。これは簡単そうで実は難しいこと。それを体現する人になってほしいです」

東海大式メソッドの導入

第2期の指導を担当するのは、東海大学陸上競技部中長距離ブロックの豪華な面々。この日は西出仁明ヘッドコーチ(通称ノリさん)と院生コーチの川端駿介(シュンコーチ)を筆頭に、現役ランナーの草刈恭弓(4年)と永本脩(3年)​、杉浦柊人(3年)の3名も帯同。大学陸上界のトップ層である彼らの走りと存在は、参加者にとって貴重な刺激になるはずだ。

この日のメイントレーニングは、東海大学のメソッドを中高生向けに最適化したスピード系のトレーニング。トレーニング内容と細かなデータが記された資料が、コーチ陣から選手たちに配られる。

テーマは“最大酸素摂取量の向上”と“ペース感覚の習得”。メインメニューは300m×3本×4セットのインターバル走だ。インターバルは1本間が30秒、セット間が3分。

「今日の内容は少し息が上がると思うけど、それによって最大酸素摂取の能力を高める、というのを狙いにしたトレーニング。言わば、エンジンを大きくするトレーニングです」(ノリさん)

トレーニングに入る前に、それぞれに配られたPRE特製ノートに今日の意気込みや目標を記入する時間が設けられた。ノリさんが次のように話す。

「書くことが未来の自分へのメッセージになる。今日だけで終わらず、3回の積み重ねで、自分を“少しずつ”変えていってほしいです。このPREの3回でどんなゴールを目指すのか。それも書いておければより良いと思います」

選手たちは3000mの目標タイムごとに以下の4つのグループに分けられた。

Group A(8:55目標):55秒/300mペース
Group B(9:15):58秒
Group C(9:30):60秒
Group D(9:55):62秒

まずはダイナミックスレッグから。股関節や肩甲骨、ハムストリングスをしなやかに使う動的ストレッチを、シュンコーチが先頭に立ち、見本を見せながら丁寧に指導していく。

「リズムよく歩いて」「膝はなるべく伸ばして」──地道でありながら、走りの基礎となるパートだ。

その後、1600mのジョグと100m流しを経て、シューズトライアルへ。選手たちは“DRAGONFLY 2”や“STREAKFLY 2”などのモデルを履き比べ、フィット感や反発性を確かめながら、それぞれに合ったシューズを選んでいる。

午後7時15分。スタートラインに集まる選手たちの前で、トラックに沿って設置されたウェーブライトが点灯。ウェーブライトとは、さまざまな国際大会で採用されている電子ペーサー。400個のLEDを400mトラックに1mおきに配置し、決められたペースで発光していく”ペーシングライトシステム“だ。

メイントレーニングがついにスタート。各グループの先頭をコーチ陣が走り、ウェーブライトに呼応してペースを整えていく。

「飛ばしすぎなくていい。ペースを守ることが今日の目的だよ」

「インターバルで呼吸を整えて、水分補給も忘れずにね」

ノリさんがランナーたちに声をかける。セットが進むにつれ、ランナーたちの表情も引き締まり、身体からは本気の“熱”が放たれはじめる。暗くなった競技場に、ウェーブライトの光が映える。その中を25人の中高生ランナーたちが等間隔で駆け抜ける姿は、ここでしかお目にかかれない特別な光景だ。

ラストセット──39秒の衝撃

「3セット目、4セット目が“レースの本番”に近づくタイミングだよ。集中していこう」

「ここまでの自分を越えていこう!」

最終セット前、ノリさんがランナーに発破をかける。最終セットの最終周では、先頭グループのトップランナーがなんと39秒という驚異のラップを記録。また、全員が最後まで走り切り、誰ひとり脱落しなかった。その達成感が場を包む。

クールダウンでは、トラックを逆走して2周。1kmあたり5分30秒という“整えるペース”で、隣を走る仲間と会話を交わしながら呼吸を整える。最後に、シュンコーチによるストレッチ指導が行われた。

「つま先はまっすぐ。反動をつけないで。呼吸を忘れずに」

細かい指導に、参加者たちは真剣に耳を傾けながら体をケアしていく。

午後7時45分。最後のノートタイム。選手たちは黙々とペンを走らせる。よかったこと、課題、気づき──それぞれの言葉で、今日の出来事と今日の自分を振り返る。

「今日だけじゃなく、明日以降もこのノートを使い倒してください。強くなるには、自分を知ることから始めましょう」(イッチーさん)

ノリさんが選手たちに向けてこう語る。

「今日でほんの少しだけゴールに近づいた。でも、ほんの少しです。だからこそ継続が大事なんです。毎回いい準備をして、少しだけでも強くなる。それを継続していけば、気がついたときにとんでもなく強い選手になっている可能性があります。1日1日、ちょっとでも強くなることを意識して頑張ってください」

ランナーたちは次のように今日のトレーニングを振り返る。

「私は800mがメインで、これまではただ走れば速くなると思っていましたけど、持久系とスピード系の練習があって、それをバランスよくすることで速くなれるということを今日学べました」

「ストレッチやジョグ、流しなど、そういう基本的なところからしっかり準備していくことが大事だと知れました」

「最後のフリーで一番になれず悔しかったので、スピード練習がもっと必要だと感じました」

新しく得た知識も、悔しさも、達成感も、そのすべてが“次”への糧になる。

ラストは全員で記念撮影。互いに拍手を交わしながら、Day1のプログラムが締めくくられた。

PRE Fast Track Club 第二期。ここはまだ、準備段階。

だが、確実に何かが始まった──25人の若者の“未来”が、一歩踏み出すたびに、形になっていく。

PROFILE

佐藤 麻水(Asami Sato)
佐藤 麻水(Asami Sato)
音楽や映画などのカルチャーとサッカーの記事が得意。趣味はヨガと市民プールで泳ぐこと。

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