
NIKE×STEP SPORTS×Ggoat
2025年2月23日。雲一つない青空の下、記念すべき第1回目の“PRE Fast Track Club”がスピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)にて開催された。
PRE Fast Track Clubとは、NIKEとSTEP SPORTSがタッグを組み、中学生と高校生を対象に中長距離種目の特別なトレーニングを行う練習会のこと。今回参加するのは、SNSからの応募を経て選抜された24名のランナーたち。
9:30 AM。受付を済ました選手たちがまず向かったのは控え室。入室と同時に、選手たちから驚きの声が漏れる。それぞれのロッカーに参加者の名前が記された特注のボードが貼られ、NIKEのバッグが置かれている。バッグの中身は、長距離用陸上スパイクの“ドラゴンフライ2”と、ジョギングに最適な“ボメロ 18”、PRE Fast Track ClubのロゴがあしらわれたNIKEのトレーニングウェアなど、参加者の心を湧き立たせるアイテムたちだ。


着替えを済ませ、“ボメロ 18”を履いた選手たちは、トラック脇に設置されたテントに集合。テント内のベンチの上には、ロゴ入りの特製ノートが等間隔で置かれている。今日のMCを担当するSTEP SPORTSの市川寛人さんが、選手たちに開幕の言葉を伝える。
「皆さんおはようございます!はじめに、PRE Fast Track Clubって何?ということからお話ししようと思います。この “PRE”という言葉は、準備のprepareと、NIKEと契約した初めてのスターランナーSteve Prefontaine(スティーブ・プリフォンテーン)の愛称“プリ”を掛け合わせたものになっています。
全3回のPRE Fast Track Clubを通じて、コーチ陣や監督にどんどん質問して、たくさんのことを感じて、吸収して、学んで、持ち帰って、それぞれの部活にも広めて、みんなだけでなく周りの子も含めて成長する、そんなイベントになればいいなと思っています。
では早速ですが、本日のゲストをお招きしたいと思います。本日の練習をリードしてくださる駒沢大学駅伝部総監督、Ggoatプロジェクト代表の大八木弘明さんです」
会場内で一人だけ他とは異なる存在感を放っていた男性がマイクを手に取る。
「おはようございます。今日は中高生を対象にこの練習会を開催するということで、まずは“楽しく”やってほしいなと思います。その上で、皆さんが今後レベルを上げていけるような練習をしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします」
大八木弘明さんの挨拶の後、今回のコーチ陣を務めるGgoatのメンバーが一人ずつ挨拶を行っていく。Ggoatとは大八木さんが代表を務める、日本人選手が長距離種目で世界のトップを獲ることを目標としたプロジェクトであり、主に駒澤大学駅伝部の元選手と現役選手たちで構成されている。ランニングコーチとして活動する宮内斗輝さん、大学駅伝三冠を成し遂げた円健介さん、昨年度までJR東日本ランニングチームに所属していた黒川翔矢さんなど、総勢13名の豪華なランナーたちがこの日のために集結した。


アップからハイレベルなラン
10:15。Ggoatメンバーの挨拶が終わり、まずは準備体操からスタート。コーチ陣の声出しに合わせて体をほぐしていく。次はトラックを使った動的なストレッチ。大八木さんやコーチ陣が、朗らかな雰囲気で選手たちに動きをレクチャーしていく。
ストレッチが終わり、ウォーミングアップに移行。通常の反時計回りではなく逆走で、2列に分かれてトラックを6周し、100M流しを3本というメニューだ。先頭を走って集団をリードする宮内さんに、「遅いぞ!もうちょっと早く走れ!」と大八木さんが笑いながら伝える。インカムマイクを装着した大八木さんや主要コーチ陣の声が、スピーカーを通じて会場全体に流れるというシステムだ。スピーカーからは、イベントを盛り上げるためのアップテンポなダンスミュージックも流れている。
途中、「フォームを考えて走ろう」というアドバイスを大八木さんが伝える。トラック脇からメインスタンドに上がり、Ggoatメンバーと中高生たちの走りを見比べると、Ggoatメンバーは上半身のブレがより少ないことが分かる。
視線をバックスタンドに移すと、この日のために特注したであろうPRE Fast Track ClubとNIKE 、STEP SPORTSの旗が風になびいている。埋立地という立地条件が影響しているのかは分からないが、なかなかの強風だ。
3分50秒(1000M)のペースでトラック6周を走り終えると、バックスタンド側までジョグし、直線100Mを軽いダッシュで流す(ランナーではない私からすれば、ほぼ全力ダッシュに見える)。それを3本繰り返し、アップが終了。テントに戻ってきた選手たちの息は少しだけ上がっているが、まだまだ元気そうだ。



大八木弘明総監督とGgoatが引き出すナイスラン
選手たちは“ボメロ18”からスパイクの“ドラゴンフライ2”に履き替え、長袖のジャージを脱ぎ、より走りやすい格好に着替えている。ここからのトレーニングは、ウォーミングアップでの走りぶりや自己ベスト、体調などを考慮し、ABCDの4チームに分かれて進めていく。
まずは2000Mから。最もハイペースのAチームは、3分30秒(1000M)のペースを目指すという。大八木さんはそれぞれの目標タイムを告げながら、「楽しんで走ろう」としきりに伝えている。
ABチームがトラックサイドクロックの位置まで移動し、大八木さんの「よーい、ゴー!」の声を合図にスタート。アップ同様、コーチ陣が先頭を走ってペースをコントロールする。1周目は75秒で通過。ペースが上がったことで名監督の血が騒ぐのか、「それより落とさないよ!76秒のペースで引っ張ってあげよう!」という大八木さんの檄が飛ぶ。
少し遅れてCDチームもスタート。Cチームの目標タイムは1周83秒だ。CDチームが懸命に走る中、Aチームは6分27秒で2000Mを走破。リカバリーは3分に設定され、コーチたちとコミュニケーションを取りながら呼吸を整える。
次は1200M。Aチームは3分5秒(1000M)が目標タイムに設定された。「無理はしなくていいよ。練習はできてなんぼだから、最後までこなせるように。きつい人はチームを変えても大丈夫」と大八木さんが伝える。距離が短くなる代わりに、目標タイムがより短く設定されるというトレーニング内容だ。
選手たちが走り始める。心なしか、音楽のボリュームがアップ時よりも大きくなり、選手たちの走りとリンクしているように感じられる。「いい走りしてるよ!最後落とさない!」という大八木さんの声や、スタッフの拍手と声がけを追い風にして、3分1秒(1000M)という目標を上回るタイムで走りきった。
テントに戻ってきた選手たちは、イベント開始直後と比べるとだいぶ精悍な顔つきになっている。3分のリカバリーを挟み、次は800M。Aチームから遅れてしまった選手はBチームに移動。Aチームの目標タイムは一周70秒ペースだ。コーチ陣が隣で伴走し、声をかけ、時には背中を押しながら、選手たちの走りをサポートする。「ナイスファイト!」、「どんどんチャレンジしていこう!」というコーチ陣の励ましが会場にこだまする。
最後は200M。Aチームの目標は29秒。最後の力を振り絞り、先頭の選手は27秒でゴール。大八木さんとコーチ陣の予想と設定を上回る走りを見せた選手たちに、「ナイスラン!お疲れ」と声がかけられる。選手たちの顔は晴れやかだ。



「努力に即効性はない」
再び “ボメロ 18”に履き替え、ダウンとしてトラックを3周する。今日初めて出会った選手同士も、いつの間にか友達になったようだ。コーチや隣の選手と話しながら、笑顔で体をクールダウンさせていく。
トレーニングが終わり、テント内で長袖のトレーニングウェアを身につける選手たちに、MC市川さんが話しかける。現在は陸上部に所属せず、個人的に走っているという高校1年生の選手が、受け答えで会場を沸かす。
「まだまだですが、もともと2分23秒(800M)が自己ベストだったのが、今日2分18秒が出ました。ぜひ、駒澤大学から推薦が欲しいです(笑)。高橋正仁さんのファンなのですが、どんな選手でしたか?」
「努力の人。毎日他の人よりも10分くらい多く走っていた。自分に足りない部分を頑張って伸ばせる人で、ロードのほうで成長したね」と大八木さんが答える。
最初に配られたノートに、選手たちが今日のトレーニングメニューや感想を書き込んでいく。こうした振り返りの時間も、PRE Fast Track Clubのプログラムの一つ。練習ノートについて、大八木さんはこう伝える。
「陸上競技をやっていると、いいタイムを出せた時も、出せなかった時も、それぞれあると思う。それを後から振り返れるように、『いいタイムを出せた1週間前はこういうことをやっていたな』という流れも含めて日誌に書こう。
何時に起きて、何時に食事に取って、どんな場所でどんな天候で練習して、自分自身の走りへの満足度はどうだったか、ということを書いて、寝る。次の日起きて、また新しい1日が始まる。それを繰り返していくことが大切だよ」
最後は全員で集合写真を撮り、イベントが終了。今日のイベントについて、大八木さんが選手たちに最後のメッセージを伝える。
「いい練習ができたと思います。『楽しんでやろう』と伝えましたが、最後はちょっとキツかったかもしれない。でも、今日のトレーニングをちゃんと乗り越えられたことや、記録を出せたことが、また楽しみに繋がってくる。それがスポーツの醍醐味だと思う。
陸上競技はキツさもある。でも負けないで、継続して、しっかりやっていきましょう。努力に即効性はない。コツコツ頑張って積み重ねていかないと、結果というものは出ませんから、これからも頑張って陸上を続けてください」

一人の中学生ランナーは、第一回目のPRE Fast Track Clubに参加した感想を次のように話す。
「いつもの部活動の練習よりもキツかったです。でも、同じようなレベルの選手たちと一緒に練習ができて、コーチからの声がけもあって、また一つレベルアップ出来たと思います。新しい友達もできて、楽しく走れてよかったです。
アップやダウンの時に教えてもらった準備体操もタメになりましたし、大八木監督に言われたように、毎日ノートを書いていこうと思います」
第2回目は約1ヶ月後。可能性の塊である中高生の彼らは、たった1ヶ月で途轍もない飛躍を遂げるかもしれない。そんな期待を抱きながら、彼らとの再会を待とうと思う。
著者
佐藤 麻水(Asami Sato)
