FOOTBALL | [連載] LAで求職中。

LAで求職中。 #week7 / 文・田代楽

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photo by Gaku Tashiro / text by Gaku Tashiro

はい、壊れました。
腰が、壊れました。無保険です。観光ビザです。終わりです。

相変わらずLAは天気がよくなくて、夕方のビーチではダウンを着ている人がいるほどの異常気象である。昔、ロンドンに留学していた友だちが「ロンドンの天気は自分の心を表すかのようにいつも雨」と詩的に留学の辛さを話してくれたけれど、確かにうまくいっていないときに、ずっとピーカンだったらそれはそれで鬱陶しいなと思う。

それにしても腰が痛い、仕事は決まっていない、LAの天気は今日も曇りである。

5月22日 忽那汐里

に会ったみたいな書き方をするけれど会っていない。
名作サンクチュアリを観てから、忽那汐里ブームがLAの私のアパートメントの私の部屋付近で巻き起こっていて、ポッキーのCMをしていた彼女が日本を飛び出して海外で勝負することにした経緯も含めてなんともカッコ良いのである。

あといい感じに高校の友だちっぽくて不思議である。たまに高校の友だちっぽい芸能人をみるけれど、あれはどういうフェロモンによって醸し出されているのか本当に不思議。もしくは母校に芸能系フェロモンがあったのか。

5月23日 エルトラフィコ

ということで、平日開催のカップ戦、LAFCとLAギャラクシーの試合がBMOスタジアムで行われるということでスタジアムに足を運ぶ。1ヶ月強もここにいると、グッズショップにはイサクがいて、サポーターエリアには顔馴染みの団体がいて、メインスタンドのちょっと高い富裕層エリアにもヒスパニック系夫婦がいるからひとりで観ることもなくなった。ありがとう、基礎英会話。ありがとう、レアジョブ。広告お待ちしております。

カップ戦で主力が出場しないとはいえ、大都市に位置するビッグクラブ同士の対戦とあり盛り上がっていた。ダービーですから。

試合開始前にはLAFCサポーターから「F**K GALAXY」コールが高らかに叫ばれ、私の中の野々村チェアマンがすみやかに彼らを処分しかけてやめた。そりゃダービーですもんね。隣で観ていた夫婦もあからさまな中指を頭上に掲げていたけれど、ビールを持っていた手で掲げたもんだからカップの中のビールがこぼれて、それを浴びながらみんなで笑った。私の中の加山雄三が「幸せだなぁ…」と言おうとしてやめた。

普通に0-2で負けた。途中、ギャラクシーのチチャリートが交代してからは、ユースの試合かのような知らない子たちによるエネルギッシュなゲームになっていてよかった。試合にはそのユースの子のクラスメイトがたくさん来ていて、ボールを持つたびに歓声をあげていた。若いときからカッコつけることの大切さを学び、地域と接する尊さを体験し、プロとして振る舞う機会があり、友だちが応援にくる。私の中の、人の気持ちを推測する能力に長けている加山雄三が「幸せなんだろうなぁ…」と言って、スタジアムを後にした。

5月24日 大遊戯馬歌舞伎町

この街にも居酒屋がある。それも日本のソレよりもいい雰囲気の。

先日ベニスで出会ったシュンタくんとご飯でも食べましょうってことで、ウェストウッドにある居酒屋HEROへ。実は渡米まもない頃にご紹介いただいて一度訪れていた場所である。

居酒屋に行くなんてもちろん初めてで、というかLAでそれが実現すると思っていなかったから控えめにいって大学2年生に戻ったくらい楽しかった。ふと周りを見渡すとお客さんはみな日本人で、聞くところによるとこの街で戦っている日本人が集まるような場所らしい。そりゃみんな仲良くなるよなぁ、と思っているとシュンタくんの語学学校フレンズが2人きた。不動産の営業中、資料を指差すために腕を伸ばしたところ肩が外れた経験のある元ラグビー部のジュンペイくんとモデルをやっているアミちゃん。

ミックスルーツのアミちゃんに「どこの血が入っているの?」と聞いたら「どこだと思う?」という大学2年生に戻ったくらい最高の返答がきたから「コロンビア?」と答えた。

「ううん、ペルー」

ペルーだった。不正解だった。
その瞬間に大学生の頃、新宿のHUBで出会った女の子のことを思い出した。

まだ私の髪型がツイストパーマで、1ヶ月のブラジル滞在から戻ってきたあの夏、友だちと一緒に歌舞伎町のHUBにいった。その日は金曜日の夜だったからとにかく欲望という欲望が溢れていて、その熱気が生み出したキモ雲(Just 命名)で店内が若干湿っている、そんな空間だった。キャッシュオンのカウンターに並んでいると、隣にそれはそれは綺麗なおない年くらいの女性がたっていて、しかも、デロンデロンに酔っている。

「歌舞伎町・金曜日の夜・デロンデロン美女」大三元、親48,000点、子32,000点おめでとうございます。

話しかけてみると、まぁなんとノリが良くて、長いレジ待ちも苦ではないくらい素敵な時間を過ごした。どうやらミックスルールに見えるその子に、つい最近までブラジルに行っていたことを自慢げに話すと「えぇ!じゃあ私どことのハーフかわかる?」と最高のクエスチョンが届いた。

「うーんとね、コロンビア!かわいい子多いし!」と返すと

「すご〜い!よくわかったね!」

正解だった。夜を使い果たせそうな気がした。
その後も会話は盛り上がり、なんとドリンクを受け取った後もコミュニケーションは続く。

「何型だと思う?」

「えぇ〜、O型じゃない?」

「すご〜い、楽くん、エスパーじゃん!」

「じゃあ〜、わたしはどの辺に住んでいるでしょう!」

「え!むっず!なにそれ!でも京王線沿いじゃない??」

「なんでわかるの〜?明大前!」

最高だった。もう、最高で最高だった。
どの会話もハズレないし、確変もいいところだった。
と思っていた。

「え、じゃぁさ、じゃあさ、私のお父さんなにしてるかわかる??」

「え〜なにその質問!うーん、銀行員!」

「全然違うよ〜、正解は高校の先生!じゃあ、楽くんまたねっ!」

人生とは選択の連続である。
正解を選択する人生か、選択したものを正解にする人生なのか。20歳そこそこのツイストパーマにはあの時の正解がわからなかった。もしも “ 高校の先生 ” と答えていたら歌舞伎町の夜に消えていたのか。銀行員と答えたことが「こいつもういいや」の引き金になっていたのか。当時の私には、いや今の私にも、わからない。ただ途中からアミちゃんがこの話と全く関係なくなっていたことだけは、全然わかる。

5月25日 ひさみつ

最近の日課ことプラヤビスタのピックアップゲームに行く。最近のお供Podcastは渡辺直美が外国人とsexの話をする謎すぎる番組から日本のギャルふたりが英語で会話する「Tea with Frenzy Lazy」に切り替わった。ただそのpodcastも結局、男女の関係について話す番組だからインプットが肉体系に寄りすぎている。

もう数週間このピックアップに参加していると、だんだんとポジションが確立されてきていて、僕のポジションは日本で一度も経験のない右センターバックとなった。もれなく対峙するのはチーターと同じくらい足が速いブラジル人とかARMYと書かれた帽子を被ったメキシコ人おじさんとか元インドネシア代表とかまぁそれぞれである。

その日もいつものように司令塔にブチギレられて、ブチギレ返しながら淡々とプレーをしていた。試合も終盤、相手のセンターバックから大きなパスがスペースにでて、それを追いかけるチーター・ブラジル。チェイスする僕。切り返すチーター。負けじと身体をぶつける僕。突っかかりながらも強引に突進する足早動物。「マーオ」強引な突進についていこうとする僕。

マーオ?

その瞬間、確かに腰からオルタナティブなサウンドが轟き、膝から崩れ落ちた。Dos Monosかと思った。チーターの切り返しについていこうと腰を強引に捻ったところ、限界を迎えた。思えばマリファナまみれの “終わっている宿” から、腰に負担のかかる寝床でしか寝ていない。踏ん張ることもできないくらいの激痛が走り、チーターは無事ゴールした。ここがサファリだったら死んでいた。アニマルプラネットでも観たことのない【死因・腰痛】で死んでいた。

ということで激腰痛を患った。なにもできない。保険もないし、仕事もない。
でも薬局で買ったサロンパスがある。せめてもの願いを込めて、株式会社久光本社の方角を向いて寝ることにした。鳥栖方面。

マーオの瞬間

5月26日 天井の穴

朝起きたら保健室の匂いがしてホームシックになりかけた。

原因は自分の腰に貼られていたサロンパスだった。

どんなところでノスタルジーを感じているんだ。

5月27日 逆ルー大柴

ルーミーのニコと話していた。

ニコと話すときは基本的に英語なのだが、ニュアンスが日本語にしかない単語を使うときはその箇所だけ日本語で話をする。逆ルー大柴みたいな感じ。
彼は22歳。年頃の男の子だからそりゃ激しい恋愛もするだろうと思って、フランス人の恋愛ってどんな感じではじまるの?と聞いてみた。

「大体パーティーでキスして始まるね」

Emily In Parisは結構忠実な脚本であることがわかった。ちなみにそのキスがよければ一夜を共にして、そこからシリアスな関係になるかを見定めるらしい。言葉があっているかわかりませんが人間としてのHappinessが桁違いにDifferentじゃないですかフランス人。そりゃみんな笑顔だわ。キスから始まってんだもん。キスなんて終わりの方じゃないですか普通。ずるいじゃないですか。そんなの。そりゃサッカー強いですわ。ムバッペとか生まれますわ。キスから始まってんだもん。

5月28日 サンタモニカピア

かの有名なルート66の西の最終地点がサンタモニカピアである。THE 観光名所のそこには全世界からの観光客がごった煮のように存在していて、みな煌びやかな観覧車で写真を撮っている。「死ぬまでに一度は遊びに行きたい場所、サンタモニカ」として紹介されている記事を見たこともある。

そんな人生のメモリアルプレイスになりうる場所を、私は死にそうな顔で通過した。腰が痛いからである。正直サンタモニカだろうがマチュピチュだろうがカンプノウだろうが、腰が痛ければただの建造物である。腰が痛くないほうが人生にとってよっぽど大切で幸せなことだ。

サンタモニカから電車で10分弱の奇跡的な立地にいまの家があるもんだから、時間があればビーチに行って、海沿いを散歩してる。意図せずに理想の老後みたいな生活が完成していることに気がついたとき、そしてその理想の老後生活を1ヶ月もしてみると飽きてくる実感を得たときに、あらためて日本を離れた自分の決断を尊重したくなった。あと数十年働き続けて、ようやく手に入れた理想郷に1ヶ月で飽きるなんて怖すぎる。その理想郷で金がないことが1番の問題なのだけれども。

それでも夕暮れどきの観覧車は美しい。

その美しさは、全てを手に入れた後に見るそれとはまた違うんだろう。

PROFILE

田代 楽
田代 楽
無職。26歳。ロサンゼルス在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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