待つ。
『仏光録』に収録されている説法の一部に、「私は、一夏の間、あなた達が気がつくところがあって、その心境を私が証明してあげることをずっと、待っていた。四月しがつより待って、五月ごがつになり、五月より待って六月ろくがつになり、六月より待って今に到った。その間、昼間も部屋の戸を閉ざさず、夜も戸を閉めずに待っていた」との一文がある。
つまり、教育において最も大切なことは『待つ』ことであると。
この国はとにかく待たなければならない。
スーパーマーケットのレジも、メトロも、そして「2日以内に結果をお知らせするね」と陽気に言われた面接の結果も。
あぁ、憂鬱である。
5月8日 Emily In Paris
そう、やることといえばちょっと早く起きて、午前中をすべてをNetflixの視聴に充てる壮絶な待ちタイムであった。そしてここから数日の日記が拝見した映像の感想文になることを許してほしい。
「Emily In Paris」は、リリーコリンズの演技も、パリの街並みも、演者のファッションもまぁ綺麗なんだけど毎エピソードでタイトルロゴが出る数秒がとにかくイケている。なんだろう、おそらく私は途中でタイトルロゴが出る演出がたまらなく好きなのだ。
映画スラムダンクも1番あがったのはOPだった。ちなみにシャドーイングの教材をkemioのTikTokにしているもんだから、若干口調がカワイイ感じになってきた。お察しの通り、この日は本当になにもしていなかった。
5月9日 サンクチュアリ
本当に最高。もう最高。最高。最高です。
Netflixが2年以上の制作期間をかけたオリジナルシリーズ「サンクチュアリ ー聖域ー」を一気見して幸せな日だった。もうスラムダンクを初めて読んだときと同じ気持ちになった。いやぁ、面接の結果まだですかね本当に。
Netflixの昭和の日本エンタメぶり返しシリーズ(勝手に呼んでいる)(全裸監督とか浅草キッドとか)が最高すぎて日本がまた好きになった。どれも”昭和”っぽい、”日本”っぽい根性ありきの風景を描いているにもかかわらず、”令和”っぽいスケジュールとクリーンな職場で制作しているらしいのだから面白い。なんとなく世論も「Netflixだからできる表現だよなぁ」なんて思っている感じも、面白い。そんな話はどこかで誰かとしたい。
身近な国技にもかかわらず、全てのスポーツ(?)のなかで最も遠くに感じる「相撲」は、多くの若者にとってサウナの中で水風呂に行くタイミングを決めるのに最適なスポーツだと思われているに違いがない。八百長、指導という名のしごき、新興宗教との関係と、他のスポーツならば一発でアウト判定がでそうな事柄が多く報道されているのにもかかわらず「相撲だから」の一言でなにもなかったことになる。そして私も割と「相撲だから」で片付けていいと思っているひとりである。
そういえば先週行われたLAFCの試合中、得点が入るたびにどこからともなく飛んでくるビールの波について「なんでこんなにビールが飛んでくるの?」とウィルに聞くと「LAFCだからね」と言われた。
面接の結果まだですかね。
5月10日 環境×
パワプロくんのサクセスモードでせっかく育てたキャラクターをダイジョーブ博士に潰された経験の数がその子どもを大人にさせてくれる。みたいなことを歌った岡本真夜の曲「TOMORROW」を聞きながら面接の結果を待っているけれど一向に返事がこない。こうなると面接官の言った「2日以内」を疑うしかない、もしかして白夜とか?まだ日が沈んでない感じ?
2021年の年始くらいに開始して、毎週配信しているPodcast番組「Football a Go Go」は私にとって大切な存在で、もう2年近くもやっていると生活の一部として十分な機能を果たす。
昨年日本のポッドキャスト番組スポーツカテゴリで最高6位に入賞したその番組(突如自慢)はピッチ外の事象について主に話す。一緒に配信しているNanaseさんは日本に住んでいるので、当然日米にある物理的距離と時間的距離を解消しなければならなかったが、前者はFaceTimeが、後者はお互いのちょうどいい時間を見つければ問題ないことに気がついた。
ということで10日に配信された回を聞いてみてほしい。滞在しているシェアハウスに併設されている録音スタジオを朝7時に予約したのにもかかわらず、ドアは封鎖されていて、しかたなく部屋のバスルームで録音したら、どう考えてもバスルームからお届けしている様子がわかる音質が完成した。普通に凹んだ。
5月11日 ココ
Angel City FCのボランティアの日である。
今日はLGBTQセンターにて、食材のパッキングを行う。仕切っているのはクラブスタッフのココである。
ココは会場に到着し次第、むちゃくちゃ早口で身振り手振り説明してくれた、なんかキャラクターみたいで可愛かった。そして早口で独り言をいいながらデカいきゅうりの箱を運び終えてグータッチをしてきた。なんだこのかわいい生き物はと思った。
あとから聞くと、ココは中国ルーツをもつアメリカ人らしい。
だから早口だったわけでもなさそうだけど、この国では本当にいろんな人種が混ざっていて、だからこそコミュニケーションのコンテクストもそこまで高くないように思える。よく外国人が日本語は難しいと話す意味が、ネイティブからするとよくわからなかったけれどいまはわかる。
ココの腰からは、常にAirTagがぶら下がっていたけれど意味はわからない。
自分を見失いためだろうか。
5月12日 ティフォ。
他称「終わっているメトロ」ことBラインをシビックセンターで下車し、10分くらいダウンタウンを歩くと「テラサキ・ブドウカン」に辿り着く。
ウォルターに連絡をもらい、LAFCのサポーターと一緒にティフォ(近くのサッカー好きに意味は聞いてね)を作ることになった。前回スタジアムであった人も何人かいて久しぶりに新しいコミュニティが形成されている感覚と、気がつけば普通に英語で会話することに慣れた自分に嬉しくなった。
LAFCのティフォといえばドラゴンボールの孫悟空が有名だが、とにかく日本のアニメや漫画カルチャーへの興味が高い。確かにウォルターは日系人だけど、そのチョイスには関わっていないって言っていたしなんなんだろうか。なにはともあれ、ポスカでチマチマと線を書いているときに、いつか誰かがこの幕を見てサッカーを好きになるのだろうかとか考えていたら不思議な気持ちになった。
5月13日 路上の面接
朝、先日Angel City FCのボランティアで一緒になったモーガンから連絡がきた。
「チケットまだ買っていないなら、あげるよ」
『最高かな、モーガン』
一度しか会ったことのない謎極東人にすっとオンラインチケットをくれるんだからこの国は最高である。
試合会場に着くと、モーガンはまだ到着しておらず、かといって挨拶もしないでスタジアムに入るのもなぁと思って待つことにした。すると腰をかけた椅子の横に座っていた女性に声をかけられた。名前は忘れちゃったけど、ビールをくれて乾杯した。東京から来たんだよねぇと話したらテンションが上がったらしくもう1缶くれた。
美しい国、日本。
そんなこんなで話をしていたらモーガンがきた。そして開口一番こう言った。
「たったいま鍵を落としたわ」
あたりまえに拒否権のない極東ボーイも必死に加担して探していると、今度はサキさんに会った。同窓会くらい知り合いだらけだなと思った。
そんなこんなでサキさんと面接の結果を待っている話をすると「まぁそんなもんだよ〜。」とLAの基準を教えてくれた。
2日以内に連絡するね。で2日以内に連絡が来ることのほうがレアみたいである。大仁田厚が引退するらしいね。くらいの信憑性と思っていただけるといいかと思う。
サキさんとお別れしてモーガンの鍵を探していると、なんと例の面接官にあった。
彼女は私を見つけるなり満面の笑顔で握手をしてくれ「この間の面接ありがとうね〜」と話した後、ちょっと話していい?と面接の続きが始まった。
大仁田厚ばりのアツ苦しさを直接伝えたあと、こんな感じのフリースタイル面接が行われることがあることを知った。
「最短いつからこれる?」との質問に『ビザの面接で日本に帰るから最短7月かな』というと表情が曇った。
モーガンの鍵は最後までなかった。
5月14日 TM23
かけるくんに誘ってもらい、VBFCが運営するTM23と呼ばれるサッカー大会の運営をお手伝い。
LAギャラクシーとLAFCでプレーしたトミーは13歳の若さで急死。類稀なるタレントと人柄を兼ね備えた彼の死はLAのフットボールコミュニティに衝撃を与えたという。
この地域で育った少年の死に哀悼を込め、いくつかのスポーツ団体が寄付をして完成したトミーフィールドにて行われた試合が今日だった。
約1ヶ月前、LAに降り立ったばかりの自分にこの場所で活動している姿は想像できただろうか。
とにかく晴天のなかで行われた大会は陽気なDJがかける曲と、審判にブチギレる父兄がいいBGMになり盛り上がりをみせていた。
そんななかVBFCキッズチームにはお馴染みのみんながコーチとしているんだけど、子どものプレーひとつひとつに激しいリアクションをしていて、生まれてはじめて少年サッカーチームに関わりたいかもと思った。そういえば前職の先輩も「この世のサッカーに関わる人で最も偉大なのは、地域のお父さんコーチだ」と話していた。
当時は意味がわからなかったけれど、確かに言っていることがわかる気がした。そんなことが多いなと思った。