シカゴのマーケティング会社で働くエミリー・クーパーは、上司の代理として急遽パリへ転勤することに。前向きに仕事に打ち込もうとするもフランス語が全く話せないエミリーは、新しい職場で歓迎されず、まともに取り合ってもらえません。フランス式の慣れない生活の中で、遠距離恋愛になった恋人ともすれ違いが生じ始めますが、フランス人シェフのガブリエルや、上海出身のミンディーと出会い、新天地での関係を築いていきます。仕事でもだんだんと成果が出始めて……。
美しい街パリを舞台に、仕事と恋愛と友情に全力で打ち込むエミリーの暮らしを魅力たっぷりに描きます。
なんて感情移入できるんだEmily in Paris。
今週もよろしくお願いします。
4月24日 シャドーイング
「衣食住」が揃うと生活が安定する。異国の地でその事実をまざまざと感じているのである。いまの家に住んでから、夜にイヤホンをせずに寝られる幸せを感じている。ちなみに例の終わっているホステルでは、夜通しで独り言を話す奇人のおかげで熟睡することができなかった。しかも独り言の内容がスペイン語だからただのノイズ極まりない。なに言っているかわからないからここに書いて消化もできない。一度「睡眠学習って聞くし、スペイン語の勉強になるかも」と思ってあえてイヤホンを外した夜もあったが、普通にうるさいだけだった。
こっちにきてから、言いたいことは言えるんだけどネイティブの英語が早すぎて聞き取れないことがある。
これを解消するにはシャドーイングが良い。
ということで日本とトルコのハーフの女性による自己啓発系YouTubeを聴きながらブツブツ話すことにした。
無事この美しい惑星にまたひとり独り言を話す奇人が誕生し、ものごとはさまざまな側面からみなければならないと思った。
4月25日 ミシェル
ミシェルが来た。LAにきた。
大学で最も仲良い友だちの友だちことミシェルとお茶をするために、カルバーシティに出向く。黄色のジャケットに身を包んだミシェルが開口1番「この国はクソじゃない?」と話していて、ミシェルがそう思うならガクだってそりゃそう感じるかと思った。
アメリカ国籍を持つミシェルだったが、アメリカ人専用の入国審査ゲートで顔面の認証が正常になされず、別室に連れて行かれたらしい。あげくの果てに「整形した?」と聞かれたらしい。
目の前でデカめのBBQチキンに素手でかぶりついているアメリカナイズドされた彼女の話を聞きながら、明日花キララも日本の入国審査でカメラ認証に引っかかるときがあったのかなとか考えていた。
ミシェルは僕と同じ大学を卒業してCAをやっていた、そして色々嫌になってLAの日系スーパーに就職が決まったらしい。「大きめの店舗だったらお惣菜とか持って帰れるかなぁ」とBBQソースを拭きながら笑う彼女はたくましく、20代のうちに自分で生きる力をつけるのは、会社で良い結果を残すことよりも尊いんだよなと感じた。
本当に人生には色々あるし人によってさまざまだ。
明日花キララの作品も色々あるし作品によって顔がさまざまだ。
4月26日 ケントさん
知人経由でご紹介いただいたケントさんに連れてっていただき、日本人コミュニティのフットサルに参加した。それにしても日本にいた何倍もボールに触っている気がする。流石スポーツ大国。
ケントさんもまた、単身で日本を飛び出しこの国で生きているカッコ良い大人だ。
業界が近いこともあって、話が弾んで大変楽しい時間だった。
フットサルの帰り、ケントさんの車であれこれ相談にのっていただいた。
アメリカ国籍を持つケントさんでも仕事を見つけるのには相当な苦労があったようだった。
「もう、完全にタイミングだから。とにかく物事は自分の思った通りに動かないよ。」
先人の言葉は、染みる。
4月27日 サキさん
事態は突然訪れた。
Angel City FCを調べていると、ひとりの女性がヒットした。
サキさんは日本人ありながら、このクラブで働いているらしいのだ。
到着と同時にコンタクトをしていたのだが、そんなことはすっかり送った私も忘れていた頃、インスタグラムで連絡をいただいた。
そしてサキさんが、超優しいのである。
速攻で担当部署の採用担当を紹介してくれ、気合いしかない履歴書と職務経歴書、そして6分におよぶビデオレターを添付した。
ここまで来たら神頼みしかない。
ビデオレターのために髭を剃ったけど、そういえばそういうの気にする国なんだっけ。
本当にありがとうございます、サキさん。見てないと思うけどこの場を借りて感謝を。
4月28日 スパム
おにぎりではない。こっちにきてからというもの、インスタに激しくスパムがくるようになった。ほとんどがスケベなお誘いなのだが、とある人物から「huge s○x?」と連絡がきて思わず固まった。コンテクストが少なすぎて憶測が飛び交うパターンである。
さて、彼女はなにがいいたいんだろうか。巨大なセ○クス?聞いたことがない。
①あなたは「huge s○x」なの?
②「huge s○x」から来たの?
③「huge s○x」がしたい?
順番に解説していこう。
①まず私は「huge s○x」ではない。万が一ほかの何者かの可能性があったとしても、確実に「huge s○x」ではない。田代楽と書いて「huge s○x」でもない。
②ましてや「huge s○x」からきていない。「huge s○x」のパスポートは持っていないし、「huge s○x語」の話者ではない。子どもの頃、絶対に練習を頑張ってサッカー「huge s○x」代表に選ばれるんだ。と夢見ていない。
③したくない。よくわかんないけど、凹みそう。
すこし寝かせた後「No」とだけ返信した。
するとスパムの中でアクティブ判定されたらしく、他のスパムから大量にDMが届くようになった。
敗北の瞬間だった。
4月29日 ノア
どうやらSaturday Footballでパーティが行われるらしい。
今夜、ユニフォームの交換やピックアップ、指でプレーするサッカー(説明難)が行われるということで2時間の小旅行再び。
会場に入ると、皆ユニフォームを着用していてこの国におけるサッカーのプレゼンスをまた新たに感じた。インスタでメッセージをくれたノアは日本にルーツがあって、Saturday Footballで働いているようだ。パルマ時代の中田のユニフォームを着ていた彼が会場で声をかけてくれた。Saturday Footballはアメリカのヴィンテージシャツ・ジャケットも多く揃えていて、ヨーロッパのものが多く入ってくる日本では見られない光景だった。
会場の外では簡易ゴールがふたつあって「3on3」が即興で行われていた。意気揚々と近くにいた同い年くらいの青年に声をかけて参加し、それはそれは良い時間だった。
さて問題はここからである。
お手持ちの端末で「LA 地下鉄 治安」と検索していただくとわかる通り、こちらの公共交通機関は普通に危険なのである。現地人はみんな車で移動をし、車を買う余裕のないレイヤーの移動手段がソレだと思ってもらえれば良い。そんななか、2時間の小旅行後編が始まる。しかも今月最も楽しみだった「RIZIN LANDMARK 5」がこっちの時間で日を跨ぐ頃にはじまるから絶対に帰らなければならない。
Saturday Footballの最寄り駅に着くと、ユニオン駅行きのホームには僕ともうひとりしかいなかった。そしてそのたったひとりの乗客が、なにかにブチギレているのである。早速の奇人エンカウントに、走ると草むらから飛び出してくるケムッソを思い出した。人生は焦っているときほど、変なのと遭遇する。
彼女は電車に対してブチギレていた。なんでも、ユニオン駅行きとは反対のホームにユニオン駅行きが到着するというのだ。あぁ、葉っぱかな。と思っていると無事電車がきて、乗って、座って、ユニオン行きとは反対方面に走り出した。
当然のごとく車内でブチギレている彼女を一瞬笑ったのち、佐藤映像のOP見れないじゃん。と普通に不機嫌になった。
仕方がないので、次の停車駅で降りて、再びユニオン駅行きのホームに移動する。彼女も同じくホームに移動して、同情すべく話しかけてみた。
「確かにクレイジーだね」
『そうだよね!!!』
「急いでるんだよね」
『私もよ!!!』
「RIZINが始まっちゃうんだよね」
『本当よね!!!私もよ!!』
多分彼女は僕の話を聞いていなかったと思う。
結論からいうと、次に来た電車は無事にユニオン駅に向けて動き出したが、ユニオン駅のひとつ手前で折り返し運転を実施し、電車に乗って30分後、私たちは1番はじめに出会ったあのSaturday Footballの最寄り駅で途方にくれていた。時刻は23時時半、すでに終電の時間を迎えていた。
ブチギレすぎてもう衣類がはだけていて、ほぼ全部見えているケムッソをなだめながら最終の電車に乗ると、驚くことにすんなりその電車はユニオン駅に到着した。そしてさらに驚くことに彼女はユニオン駅のひと手前の駅で「やっとついたわ」とつぶやき、ウィンクを僕にして下車したのだ。その駅は先ほど折り返し運転の起点になっていたんだけど。夢でもみているのかと思った。
その後、大量のホームレスに囲まれながらサンタモニカ行きの電車に乗り、無事に家に着いた時は0時半だった。できれば平本蓮の敗北ともども嘘であってほしい、そんな夜だった。
4月30日 モーガン
さて、ノースハリウッドで行われるホームレスを支援するボランティアに参加した。
Angel City FCがこの活動をサポートしていることが入り口であったが、彼・彼女らに対して、こちらにきてから感じることが多くあったので、参加することにした。
13時に指定の会場にいくと誰もいない。ただし今回は日程も間違っていないし、会場も確かにあっている。これが俗にいうロサンゼルス時間なのかと納得し待つことにした。
しかし待てど暮らせど誰も来ない。コンタクトをする術もない。
途方にくれているとAngel City FCのシャツをきた女性が現れた。彼女がモーガン、同じくボランティアに参加予定のひとりだった。
待っている間、モーガンに色々なことを教えてもらった。
なぜこの街では治安が悪いところと良いところが近くのエリアに共存しているのか、なぜ20代のうちに快適な生活を捨てるべきなのか、なぜ今年のLAはこんなに寒いのか。
モーガンはそれなりに人生経験が豊富なようで、異国の地の先輩に人生の教訓を教えてもらっている時間は楽しかった。
そしてモーガンはいつまで経ってもはじまらないボランティアにブチギレ「次にスタジアムにくるときには言ってね。チケットあげるから。」と言い残して颯爽と車で去っていった。
この国ではブチギレるが優しいひとが多い。