なでしこジャパン。ベスト8で終えたパリ五輪から初めての国際親善試合。舞台は国立競技場。相手は永遠のライバル韓国代表。
この試合監督を担ったのはなでしこジャパンの礎を築き上げた名将佐々木監督。この試合限定の佐々木代行監督だが、新生なでしこジャパンが目指す姿を見せてくれた。
それでは文章と画像を用いながら、この試合の解説、面白かった点をご紹介していきたいと思います。
目次
▪️韓国プレスを緩和させた3つのポイント
①GKを加えた3バック
②2トップの一角を引っ張り出す長野
③留まる選手。動く選手の連動。
④前半20分のポジションチェンジ
▪️今回のテーマの体現
▪️プラン変更への返答
▪️左右の旋回
▪️谷川萌々子
▪️おわり
韓国プレスを緩和させた3つのポイント
試合序盤日本は韓国のプレスを受けて中々ボールを安定的に保持する展開を作り出せなかった。
ボールを保持しないゲームプランや戦術もサッカーにはあるが、今のなでしこジャパンはしっかりボールを自分達で保持して、多くのチャンスを作り出す狙いがあるチーム。この試合の事前インタビューでなでしこジャパンの長谷川のコメントからもそんなチームの狙いは伺える。
日本が序盤韓国のプレスを受ける要因になった一つの理由が、両チームの配置の噛み合わせだ。日本も韓国もベースの配置[4-4-2]。日本はボールを保持すると[4-4-2]をベースにボールを動かしていった。それに対して韓国もベースの[4-4-2]の配置でプレスに出る。そうなれば日本がボールを動かすには窮屈な状況が強いられるのは想像がつくはずだ。
[4-4-2]でボールを保持する日本。それに対して[4-4-2]のミドルブロックを形成して、日本のボールに牽制していった韓国。ボールの出所もボールの出先を抑えられた日本はどんな解決策を見せていったのか?
4つのポイントがあった。
①GKを加えた3バック
まず1つ目は日本は後方でボールを動かすとGK山下がペナルティエリアを出て、2CBの間に立ってボールを動かす。GK山下+2CBの3バックになり、韓国の2トップに対して数的優位でボールを動かせる状態を用意。これにより最終ラインでボールを持てる状況を作り出した。それは周りの選手がポジションを移動できる時間にもつながる。
前半4分。後方3枚がボールを持っている時間で、右SH藤野が韓国SBの背後へランニング。そこへGK山下から高精度のキックが放たれて一気にプレスを超えていった。
②2トップの一角を引っ張り出す長野
2つ目がCHの長野が韓国の2トップの周辺に降りるアクション。そのアクションに韓国2トップの一角がつられてマークに出る。そうすると日本の2CBにはゆとりが生まれる。
2トップが降りる長野を外せばスッと顔を出してボールを受ける。CHの長野にパスが入ればどうしてもそちらへの注意がいってしまう韓国2トップ。状況に応じてもう一方のCH長谷川も降りてボールを受ける促しをはかる為、韓国の2トップは思いっきり日本の2CBへプレスにいけなくなっていった。
③留まる選手。動く選手の連動。
3つ目がポジション移動で韓国のプレスを撹乱させたことだ。
主に中央のレーンのコンビネーション。2CHだったら長野がCHのポジションに留まれば長谷川は高い位置へ。IHのような振る舞いでボールを引き出す。2トップのコンビネーションも同じ。一方が高い位置に留まれば、もう一方は列を降りてボールを引き出す。
これにより韓国は動く中央の選手に誰が?どこまでついていくの?と言う状況になり、徐々に日本は中央のレーンにボールが入るようになっていった。
韓国の2CHの脇。ハーフレーンを狙ってボールを動かしていく。そしてその狙いをより強めていった合図が、右SH藤野とトップの清家のポジションチェンジだった。
④前半20分のポジションチェンジ
前半20分右SH藤野とトップの清家の立ち位置をチェンジ。これに伴いSBが高い位置に上がって、SHは中へ。トップに入った藤野はトップ下のようなタスクを担い、明確に韓国[4-4-2]陣形のライン間、ハーフスペースへの侵入をより濃くしていった。
韓国[4-4-2]陣形の間に立つ陣形に。4バックの前には5人の選手が配置され、より韓国は日本のボールを奪えない状況になっていった。
今回のテーマの体現
なでしこジャパンは上記の通りボール保持の時間を長くしていった。そしてボールを奪われれば素早くトランジションプレスをかけていった。
「前から行く守備!」「奪われたらパス10本以内に奪い返す!」。アグレッシブな守備を体現することもこの試合の一つのテーマだったようだ。
そのテーマを正に体現したのが2点目のゴールだった。前半32分CKから先制点を奪ってから僅か2分後。前半34分畳みかけるように攻め込む日本。ペナルティエリア内でボールを奪われてサイドへボールを展開された瞬間に、左SB北川が長い距離を走ってトランジションプレス。そのこぼれ球を繋ぎ最後は藤野が左足で押し込み点差を2点に広げたゴール。
正にこの試合のテーマに掲げた「アグレッシブな守備」が体現されたゴールだった。
プラン変更への返答
後半日本は3人の選手を投入。韓国も交代を交えて3点差を埋めるべくプラン変更を試みた。
後半から韓国は[4-4-2]から[4-1-4-1]への配置変更。日本のボールを循環させる2CH(長谷川、長野。後半からは長野に変わって谷川)の選手を抑える狙いが見受けられた。
この韓国のプラン変更に、日本はすぐさま的確な返答を示した。
2CHを抑えられた日本だが、それにより2CBには初めからゆとりが与えられた。2CBのローマコンビが落ち着いてボールを動かして、後方で時間を作り出す。そして後半7分、右CB南が前を伺うと右のハーフレーンへ縦パスを差し込む。
その先でボールを受けたのは後半から投入された植木。トップの位置から列を降りてボールをピックアップ。植木がボールを受けた場所は韓国のアンカー脇。[4-1-4-1]陣形のウィークポイントを狙い撃ちした前進だった。
韓国のプラン変更にすぐさま的確な返答を見せた日本。韓国は状況を変えることはできずに、後半も日本がゲームを支配していった。
左右の旋回
上記で解説したシーンの中で、右サイドの三角形が旋回するアクションが隠されている。それにより韓国のアンカー脇のスペースを開門させて、縦パスをさせた構造を作り出している。
CH長谷川が斜めに、右SBの位置まで落ちる。それに合わせて右SB守屋が高い位置に上がり右SH清家が中に入る旋回を見せる。
これにより長谷川にマークにつく中盤を外に引きつけてCB南の縦パスのコースをオープン。そこへトップの植木がハーフレーンに落ちて縦パスをさせる構造を提供。中へ押し出された右SHの清家が、その縦パスの落としを受ける構造もセットで作り出した。
そんなサイドの三角形の旋回は左サイドでも見られるように。
後半12分。自陣から敵陣に入り込んだシーンをピックアップ。
韓国は7番イ・ミンアが一列前に出て日本の2CBへプレスに出る。
この瞬間左サイドの三角形が旋回して韓国の前プレスを無効化していった。CHの谷川が斜めに落ちて左SBの北川を高い位置へ。左SBが高い位置に上がることで左SH浜野は中へ押し出されてハーフレーンへ。
そしてCBからパスを引き受けた谷川から、ハーフレーンへ外から入ってきた浜野に斜めのパスを差し込み見事なプレス回避を見せた。
谷川萌々子
前半3点のリードを奪った日本。後半に入って韓国はプラン変更で反撃の狼煙をあげたかったはずだが、その灯火も一気に消し去った日本が後半も勢いを止めずにさらに追加点。
4点目を決めたのは後半から投入された19歳の谷川萌々子。彼女のプレーを見てすぐにスケールの大きさを感じた。4点目のゴールが自ら中盤で組み立てて、右サイドにボールが入ると一気にバイタルエリアへランニング。クロスボールをジェスチャーで「ここにくれ!」と要求してマイナスクロスを右足で振り抜きトドメの4点目をお見舞い。
3列目からゴール前に入ってくる迫力。長い距離のパススピードと正確性。後方でビルドアップに関与していると思えば、一気にゴール前に走り込み得点を果敢に狙う姿。後半だけの出場だったがすぐに名前を覚えてしまう印象を与えてくれた。
おわり
永遠のライバルに対して終わってみれば4得点を奪ったなでしこジャパン。内容結果ともに圧倒し、日本のサッカーファンを大いに楽しませてくれた。
高いボール保持によりチャンスの量産という武器に加えて、新たに試み出した「アグレッシブな守備」もこの試合随所に見られた。
なでしこジャパンに選ばれる面々が所属するチームの豪華さ。マンチェスター・シティが4名。リヴァプール、チェルシー、ウェストハム、ブライトン、ローマ、フランクフルト、スウェーデンの名門チーム…サムライブルーよりも豪華豪華…
ここから代行監督の佐々木からバトンを受け取る監督がどんな新生なでしこジャパンを作り上げていくのか非常に楽しみだ。