2023年、7月4日、ローズボール、エルトラフィコ。
ESTAの期限はあと1週間。つまりそれはこの広くて自由なアメリカに、ロサンゼルスにきて3ヶ月が経とうとすることを意味していて、その無謀な挑戦が無謀なまま終わりそうなことを示している。
結局、憧れたクラブでは面接までこぎつけた。知り合いも増えて、参加できる活動は全部参加してファンとも仲良くなった。1番働きたかったひとと繋がって、話をして、結局ビザの関係でいますぐ働くことが難しいことを悟った。ローズボールの上空を彩り独立記念日を祝う品のない花火たち。それが散る姿がいまの状況と重なった。
2022年夏、88risingのフェスを観に訪れたやけに電波の入らない地域がローズボールだった。初めてロサンゼルスを訪れ、LAFCの試合を観たときに「ここで働きたい気がする」となんだかわからない感覚になった。結局そのときそう思った理由がなんだったのかはいまだによくわかっていないけれど、約1年後に同じ場所でみた花火と、目の前のダービーマッチで花火よりもあっけなく散ったそのクラブの姿が定めだったのだと自分に言い聞かせた。誰にも共感されない、僕だけがもったダービーへの感想である。
約7万人が詰めかけたローズボールにはアメリカっぽい演出と、もう少し下からきていそうな陽気さと、試合に緊迫感をもたすには十分の熱が閉じ込められていた。少しやりすぎなくらいに相手を煽るクラブとファン、それを西陽を浴びながら見守る客。
少なくともこの試合では色々聞こえてくる野暮な意見を全て無視しているスタンス。そう、この競技には野暮なことを無視していいときがある。
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口調が変わります。(定型文)
カナディアンプレミアリーグというのは、まぁなかなかにキャラが立っている構成でしてそもそも所属クラブが8つしかありません。ピノよりちょっとだけ多い数の構成物質が毎年しのぎを削って一番星を目指すわけです。たまに星がもらえる意味でピノとカナディアンプレミアリーグはほぼ同じものであります。
そんななかでも一際キャラが立っている(と全員が自覚している)西海岸の島を拠点とするパシフィックFC、隣の本土バンクーバーを拠点とするバンクーバーFCがライバル関係。先日の連載で記載した陽平くんのいるバンクーバー・ホワイトキャップスは同じバンクーバーながら違うリーグであり、我々をピノとするところのパックみたいな存在です。河川敷球場でバコスカとホームランを打っているのをみて「これ毎回電車走ってるけどダイヤやばそうだな」と思った話は余談です。
きたる9月14日(土)、同じブリティッシュコロンビア州を拠点とする両クラブが互いを削りあう「BCダービー」が行われました。
「Brain Storming Session on how to shit on Vancouver
after we win on this Saturday」
週末に試合を控えた火曜日、ボスからミーティングの招待が届きます。つまり今週の土曜日のダービーで勝った場合、どう嘲てやろうかを考えるだけの会議が開かれたということです。ファンの飲み会かと思いました。
ここでいくつかの前提を整理します。
愛くるしい弊クラブはこのバンクーバーFCに5試合連続で敗北中。お伝えしたいのはバンクーバーFCが特に強いわけでもなく、単純に相性がとんでもなく悪いということ。このダービー前に彼らがリーグ戦で勝利した6勝のうち半分がパシフィックFCから獲得したものになります。端的に言って地獄です。
さらに試合前の勝ち点差は3。現在5位のバンクーバーと6位のパシフィック。もしもこの試合に我々が勝てば得失点の関係で順位があがり、負ければその差は残りの試合数を考慮して簡単には埋まらないものに。このピノリーグはもれなく北米のプレーオフ制度を採用しており、優勝すればCONCACAFへの出場権を獲得できます。出場枠は上位5チーム。8チーム中5チームが参加するプレーオフの是非に関しては疑問を持たれたあなたが直接リーグにお問い合わせいただくとして、この試合がとにかく大切であることを意味しています。
さらにさらに、この試合のわずかひと月前に両クラブのストライカーが謎スワップをしました。どちらも監督と仲悪くなっちゃったゆえのローントレードであり、それにもかかわらずなぜか出場制限がかかっていません。つまりお互いに公認スパイ(超語弊)がいる状態でこの重要な一戦を迎えることになったのです。
この試合が大切なことはなんとなく承知したうえで、なぜわざわざ「勝った場合にどう嘲るか会議」をする必要があるのでしょうか。その理由が下記にあります。
これらは前回対戦時、つまり彼らが対パシフィックFCで5連勝を行ったあとのポストです。彼らは「なんでキミと毎週試合ができないんだろう」「5本指のピース」などの徹底的に『ダービーで勝ちましたから』態度でやってくるわけです。いまどき格闘技でも試合後にお互いを称え合わないとダメでは的な風潮があるわけですが、とことん煽ってきます。
試合結果を伝えるポストにコラボレーション招待をしてきたとき、ボスが普通に子どもみたいなキレ方をしていたことを思いだします。
ここで特筆すべきは、誰も止めるひとがいないということです。つまり敵を煽る、なにかバカにする、子どもっぽいアングルでなにかを作ることを暗黙の了解で両クラブが行っていることであるといえます。だってダービーだから、それだけの理由ですがそれを全員が理解している。
前述した会議の冒頭でも「まぁフットボール的には」と話がでてくるわけですが、少なくともサッカー国のここでもフットボール的な物語のつくりかたを妥協しないことが美徳とされています。北米的な街とのかかわり、他競技っぽい演出はあれど、どこまでいってもフィールドの事象以上に熱を生みだせるものがないとわかっているからです。だからファンとクラブが一丸となってダービーに挑む、相手を煽る。結果的には商業的成功を収めがちですが、このピュアな気持ちゆえのコミュニケーションがなければいつだって破綻するんだろうなとは思います。
そして僕が「スポーツビジネス」という単語に対して常に疑問をもっているポイントがここです。ビジネス起点で、商業的成功起点で物事を考えたときに多くの確率で『なんだかすんごい野暮なことしていませんか』的事象が起こる気がしています。それはもれなくサッカーと野球、ラグビーとバスケとそれぞれのスポーツで成功した事例を施策・人材ともに横展開しているから他ならず、サッカーのファンが一体なにが面白くてその場所にいるのかの根っこを理解せずに表面をすくっているなと感じることが多々あります。
別に身の丈にあっていないスマートなデジタル施策も、売れるってだけでつくられる黒いユニフォームも、お子さまを言い訳に過剰に配慮された環境も、そこまで欲していなくて、街と一緒に歩んでるとか、ファンと同じ目線で熱くなっているとか、そういう”昭和っぽいもの”を欲している若いひとだっている。
どこの国だってダービーにかこつけて暴れたら逮捕され、非難されるわけです。それがいいとは全く思いません。けれど例えば「絶対に負けられない!」「この街には俺たちだけだ!」的なメッセージだけの特になんのアングルもない態度をみたときに感じる違和感を違和感として持っておけるようにしておきたいなと思いながら、せこせこ準備をしていました。
試合は3点目を島出身の選手が決め、めっちゃ快勝。バリ嬉しい。
まだ始まって間もないリーグで、少しずつ点が打たれるこの感覚が楽しくてみんなやってるんだろうなぁと思った土曜日でした。
ちなみにバンクーバーFCの監督は清水にもいたゴトビさんなのですが、試合後とんでもなく不機嫌だったので挨拶したらシカトされました。そう、この競技には野暮なことを無視していいときがあるんです。