FOOTBALL | [連載] 田代楽のキカク噺

KAPPAによる美的センスの信仰を”あえて”疑ってみる

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photo by Gaku Tashiro / text by Gaku Tashiro

株価が下がっている。
ドルの価値が下がっている。
そんなことよりパシフィックFCの順位が下がっている。

いま僕の目の前に陰謀論者が現れて「すべての物事は繋がっている」といわれたら『いやマジでそうですよね』と思わず言ってしまうくらい、iPhoneがお知らせしてくるドル円の為替とカナディアンプレミアリーグにおける弊社の順位が相関している。これは本当に書かなくて良い一文なのだけれど、その陰謀論者が言った「すべての物事は繋がっている」がスワヒリ語で話されていたのならば、なにを言っているかよくわからないと思う。あらためてこの一文は本当に意味がないなと思う。

ぼくのチームメイトである陽気ボーイズ&ガールも流石に若干凹んでおり、同僚のマックは自分のiPhoneからインスタグラムのアプリを消した。彼の仕事はインスタを投稿することであることからして、普通に外国人すぎるなと思ったけれど「メンタルヘルス的に必要」とだけボソッと呟いて数日を過ごしていた。「君が日本の企業で働いていたら靴とか濡らされているよ」と心がざわついた。

8月11日、真夏にしては冷たすぎる潮風が、少し長くなった襟足を弄ぶ。
ビクトリアの港を出たフェリーは、対岸のバンクーバーに向かっていた。そう、僕はサポーターとともにダービーマッチに向かっていたのだ。彼らは自分たちの団体名が書かれたバナーをひろげ、バンクーバーFCのサポーターを揶揄するチャントを歌い、笑う。途中別のフェリーが横切ったときには、手を振る代わりにこれまたチャントを歌っていた。

相変わらず上位には負けないけれど、下位には普通に負ける愛くるしさを発揮するこのクラブは最下位だったチームにホームで0-3で敗戦した後、現在の首位チームに引き分けた。今回のバンクーバーFCとはプレーオフ出場ラインの5位を争う同じ勝ち点で、完全に勝ったほうが勢いにのるパターンの今後数ヶ月を占う一戦である。大体こういうのは勝つものだ。

負けた。普通に負けた。
グアテマラ代表のマルコはスクイズボトルが入った箱をぶん投げて破壊し、相手監督のゴトビ(あの清水にもいた)は中継のカメラに向けて5本指を見せた。そう、我々は直近のダービーで5連敗を喫したのだ。陰謀論であってほしいと思った。

帰りのフェリーでショゲたチームメイトふたりとUNOをやった。
左のやつがスキップを出してあがり、その直後に右のやつがドロー4を出して同じくあがった。絵柄であがっちゃダメじゃん、と指摘する元気もなく上を見上げると夕陽がそれはそれは綺麗だった。

ーーー

口調が変わります。(定型文)

この1ヶ月、パシフィックFCの不調とともに僕のSNSを騒がせていたことがそう、欧州の新作ユニフォームローンチです。賛否両論悲喜交々いろんな意見が飛び交っていてみんなサッカー好きだよなぁと思っていました。

たしか4年前くらい、いまやフットボールカルチャーを愛する人間がどうスタンスを切るか迷う存在になった「ヴェネツィアFC」がREIN COLLECTIONと称し、傘とかポンチョとかを出してたそのとき、当然ぼくは歓喜だったわけです。なんかよくわからないけれど、VOGUEじゃん、みたいな。大変浅はかです。

正直ヴェネツィアにいったこともなければ、試合を観たこともない。街の印象も水と映画祭しかなかったけれど、ホームスタジアムに船で行くとか、漠然とみんなが感じている印象そのままの商品を出してくる感じとか、センスだなぁと思っていたわけです。

それこそ最近閉幕したパリオリンピックでもそんなことがありました。ルイヴィトンがスタッフウェアを公開したとき、それをこの規模の大会で平気で推し進められる「めんどくさいことを言うやつがいないんだろうな」感ってなんなんだろうと感じました。TOKYO2020だって、その前大会のリオの閉会式で流れた映像とかよかったのになぁ。

○Paris 2024 and LVMH unveil the outfits and medals trays for the Victory Ceremonies
https://www.lvmh.com/news-lvmh/paris-2024-and-lvmh-unveil-the-outfits-and-medals-trays-for-the-victory-ceremonies

ときは2024年、やれコモディティ化だなんだ、と各産業で謳われていた数年前とは打って変わってもはや同じ化としてさまざまなところでみることができるようになりました。

もれなくソーシャルメディアのアルゴリズムがこの運動を活発にしている気もします。その証拠に、もはやディープフェイクを超えるようなAI顔の謎爆美女が謎音源に合わせて謎ダンスを踊る動画がインスタのおすすめに出てきたりします。万人が少しでも長く動画を見ることができるような ”優れた顔” をつくりだし、なんだか最後まで聴きたくなるように設計された音源にノる。もうここまできたら一体その動画自体になんの価値があるのかが全くわかりません。

しかも悲しいことにその同じプラットフォームでクラブの制作物を出しているわけですから、謎ダンス→飯→エロ→パシフィックFCみたいな回遊もありえるわけです。そりゃなんとなく認知のあるインフルエンサーがJリーグ界で重宝されるわけですし、誰かがこれを災害と呼んでいました。

○Why Kappa Have Achieved Premium Status With Their Shirt Designs
https://www.soccerbible.com/performance/football-apparel/2023/08/why-kappa-have-achieved-premium-status-with-their-shirt-designs/

フットボール文脈での同じ化に戻ります。上記は2023年の記事ですが、いかにサプライヤーが品質をコントロールしているかがよくまとまっています。若いモデルさんが、邪魔な色が一切ない、彫刻のような美しいフットボールシャツを着ている。そんな同じようなビジュアルだけれども異なるクラブをいくつか見ることができます。普通にめっちゃいいです。デザインも素敵。

ようするにヴェネツィアFCで世界的な名声を得た手法を横展開して、KAPPAっぽいスタイルを持つクラブを世界各地につくろうねって話だと思うんです。これ、超いいですよね、そして超怖くないですか。

○レッドブルのJ3大宮アルディージャ買収、さまざまな疑問「クラブカラーはオレンジから赤に変更される?」
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2024/08/13/j3_1

日本でも有数のイケスタジアムを本拠地とする大宮アルディージャが最近レッドブルに(実質)買収されたニュースが話題になりました。レッドブルといえばその画一したビジネススタイルと現場ノウハウの共有で世界中に拠点をつくり、世界中の若手をトップリーグに売却する手法で有名です。

クラブは莫大なお金と優秀な人材、および世界中で仕入れたデータを元に大きくなって強くなるわけなのですが、それと引き換えにクラブカラーと名前を失い、シャツの大部分を占める胸スポンサーが闘牛になります。当然世界ではその動きを嫌うサッカーファンがたくさんいるわけでして、日本でもそれなりに話題になっているトピックです。

ではなぜそれが嫌なのかといわれたら、アイデンティティがなくなるじゃないか。ってことだと思うんです。ひとは想像以上に変わることができないとか、大多数は変化を恐れているとか、そういう心理的な話ではなく「よくわかんないひとが好きなものを勝手に触るのが嫌」という最もフィジカルで最もプリミティブでそして最もフェティッシュなことなんです。

つまりKAPPA的な美しさが一体すべて正解なのかと疑う姿勢はあってもいいんだろうというのが今回の主張です。というよりもなぜヴェネツィアFCは魅力的なのに、そのほかのジェネリックヴェネツィアFCはそんなでもないんだろうってことを考えたいのです。国外のファンがその美しいシャツを着ることも、それがメディアを席巻することもいいんですけれど、サッカーにおける美しさみたいなものがそのヨーロピアンで絵画チックなものだけで定義されることにちょっとだけ疑問を感じはじめたのも事実です。

○Athens Kallithea Launch 24/25 Kappa Away Shirt
https://www.soccerbible.com/performance/football-apparel/2024/08/athens-kallithea-launch-2425-kappa-away-shirt/

そもそもKAPPAがサプライしているキットがなぜ毎度お騒がせしているかといえば、サプライヤーが広告宣伝費をかけて数字を持っているサッカーメディアと記事を作っているからであり、これはパシフィックFCのサプライヤーのマクロンが欧州ローカルメディアにシャツとお金を配り、記事を書いてもらっていることの上位互換的なことです。

今シーズンにはじめて海外クラブのユニフォームローンチに絡むまで「どれだけデザインが良くて、どれだけローンチがイケていれば世界に届くのだろうか」と思っていましたが、コネとリソースが大きな部分を占めることが某英国メディアに情報を売り込んですぐに見積もりが来た瞬間にわかりました。(イケていれば取り上げられることもある)

裏返せばそれだけSoccerBible、COPA90のような巨大サッカーカルチャーメディアに掲載されることが ”この文脈で大切か” を示しています。00年台のフジテレビみたいなことがこの産業で起きていると僕は勝手に解釈しています。

せっかくチームも全然勝てないことですし、どうすればこの島クラブがそのような大きなメディアに載って世界に届くことができるのかを、せっかくチームも全然勝てないことですし、考えたいと思います。正解は大体一年後になりそうです。

PROFILE

田代 楽(Gaku Tashiro)
田代 楽(Gaku Tashiro)
カナディアン・プレミアリーグ パシフィックFC マーケティンググループ。26歳。バンクーバー在住。 大学卒業後、Jリーグ・川崎フロンターレでプロモーションを担当。国内のカルチャーと融合した企画を得意とし、22年、23年のJ開幕戦の企画責任者を務める。格闘技団体「RIZIN」とのタイアップを含む10個以上のイベントを企画・実行。配信しているPodcast「Football a Go Go」はポッドキャストランキング・スポーツカテゴリで最高6位入賞。Instagram:@gaku.tashiro

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