FOOTBALL

サッカーでつないだ歴史、20年。“スポーツメーカーNo.1決定戦”の実態に迫る|『SPORTS MAKERS CUP』

article |

photo by Kazuki Okamoto / text by akira

プロ・アマを問わず、スポーツを楽しむ際は道具に触れるもの。競技によってさまざまな道具があり、そうした道具を数々のメーカーが製作している。スポーツ用品店に行けば、競技ごと、メーカーごとにコーナーが分かれているのを見かけるだろう。

競合しあっているように見えるスポーツメーカー各社だが、実際は『スポーツ好き』という共通点を持った者同士なのだという。その一例が、2023年9月下旬に行われたサッカー大会『SPORTS MAKERS CUP 2023』だ。

アディダス、ナイキ、アンブロ、アシックス、ミズノ、プーマ、ニューバランス、アンダーアーマーという、スポーツメーカー各社が一堂に会し、8社から計12チームが参加。週末の2日間で、メーカー同士が親睦を深めた。

2004年からおよそ20年にわたって開催されている一大イベントについて、運営メンバーの1人である、アディダスジャパン株式会社の鈴木康太さんに話を聞いた。

アディダスジャパン株式会社に勤務する鈴木康太さん

『SPORTS MAKERS CUP』のきっかけは、アディダスとナイキが行っていたサッカー交流戦だった。

かねてから親しくしていた2社間のフレンドリーマッチで交わされた、「スポーツメーカーが集まったら、どこが一番が強いんだろう?」という、ふとした会話をきっかけに、話が膨らんでいったという。

2004年に行われた第1回大会には、アディダス、ナイキに加えて、アシックスとニューバランスが参加。グラウンドを借り、ハンディスピーカーから入場アンセムを流す“演出”を行うなど、手作り感にあふれたイベントだったという。

4社のサッカー好きな社員が集まって行われたイベントは、やがて業界内で話題に。口コミが広がって、年々参加メーカーが増えた結果、現在では前述の8社が参加するようになった。

イベント運営は1社が単独で行うのではなく、各社から担当者が集まって共同運営する形をとっている。各担当者に業務が割り振られ、それぞれの裁量で形にしたものを掛け合わせていくスタイルだ。

「僕はイベント全体を見る立場ではありますが、スポーツ分野のプロが集まっているので、細かくマネジメントするのではなく、大まかなタスクだけを決めて、あとはみなさんにお任せするようにしています」と、鈴木さんは語る。

イベントの企画段階から協力して作り上げているように、各社の担当者同士で意見交換などコミュニケーションを取る機会は多いという。2020年春からのコロナ禍にあっても、ウェブミーティングや、“オンライン飲み会”をしていたほどだ。鈴木さんは、当時をこう振り返る。

「『SPORTS MAKERS CUP』2020年大会は中止することにしました。参加するメーカーがそれぞれ、コロナ禍に対する考え方がバラバラだったんです。あるメーカーはテレワークが中心で、別のあるメーカーは出社が中心で…といったワークスタイルの違いだったり、オフィスや店舗が全国各地に分散していたり、部活動に対する考え方も異なったりしていました。それによって、参加メンバーで集まって練習できないチームもあったと聞いています。2019年から大会運営に関わっていますが、改めて『数々のメーカーが参加しているイベントなんだ』と感じましたね」

その後、2021年大会からは日程が1日で終わる形で再開し、2023年大会からは1泊2日の泊まり込み日程が復活。

“スポーツ好き同士、寝食をともにして、サッカーを楽しむ週末”に対する参加者の期待感は高く、およそ250人が参加するなど、過去最大の規模だったという。

2023年大会は、メーカー8社から12チームが参加し、2日間で行われる大会は、グループステージ(1日目)とノックアウトステージ(2日目)に分かれた。

グループステージでは4チームのグループが3組構成され、各チーム3試合をプレー。

ノックアウトステージでは、グループステージの上位グループと下位グループに分かれて、1試合20分ハーフのトーナメント戦を行った。

見事優勝したチームには、大会の最後に優勝カップが贈呈された。また、大会得点王やMVP、そして参加者投票で選出されたベストイレブンには盾が贈られるなど、本格的な副賞も用意されていたというから驚きだ。

毎年改善を重ねていくという、熱心な取り組みもあってか、「今年もそろそろ『SPORTS MAKERS CUP』の時期でしょ?」「この間の大会の結果はどうだった?」と、社内外から関心を寄せられることが増えているのだそう。

参加者の中には、各メーカーのサッカー部門に所属する社員だけでなく、他競技を担当している社員もいる。また、バックオフィスの社員だけでなく、直営店の店舗スタッフを務める社員などもおり、日常の業務では交わることが少ないメンバーが集まっている。

個人で参加するフットサルイベント、いわゆる“個サル”に参加しているメンバーをはじめ、外国人のメンバー、高校や大学で選手権大会への出場経験があるメンバー、あるいは元プロ選手を擁するチームもあるが、参加者全員が本気でプレーしているというわけではない。中には、サッカーを楽しむことを目的としたメンバーで結成されたチームや、男女混合で構成されたチームもある。

多様な参加者を束ねるのは、サッカーを楽しむ心に加えて、“互いにリスペクトする心構え”だと、鈴木さんは言う。

「もしかしたら、スポーツ業界はちょっと特殊なのかもしれません。各メーカーは、同業他社ではありますが、だからといってバチバチするのではなく、互いにリスペクトしあう文化があります。『SPORTS MAKERS CUP』でも、その点は同じです。それに加えて、『ブランドのユーザーを意識することや、プレー以外の部分でも手本となるような行動を大事にしよう』ということを、参加者には伝えています。ユニフォームやスパイクなど、自社の製品を身に着けてプレーする以上、参加者1人1人がブランドを代表することになるからです。また、『SPORTS MAKERS CUP』では審判を外部から招くのではなく、参加者自身で行うようにしています。これも、参加者同士でリスペクトの精神を大切にしたいからです」

『SPORTS MAKERS CUP』の楽しみは、サッカー以外にもあるようだ。

たとえば、1日目が終わった後の食事会は、時間が経つにつれて人々が入り交じるようになり、メーカーの垣根を越えた交流が生まれているという。

そこから、好きなサッカークラブの話になったり、同じ業界ならではの話になったり、学生時代の知り合い同士で旧交を温めたりと、いわゆる“横のつながり”が広がっていくようだ。鈴木さんは、このように語っている。

「多くの参加者が集まる『SPORTS MAKERS CUP』の運営は大変です。各地にあるメーカーから人が集まるので、それぞれにとって集まりやすい場所を開催地とする必要がありますし、1泊2日の日程なので、宿泊場所も確保しなければなりません。参加者によっては、ご家族でいらっしゃることもあります。ですが、当日に参加者同士で楽しくプレーしている様子や、コミュニケーションを取り合っている様子などを見たときは、やりがいを感じましたね」

『SPORTS MAKERS CUP』には、長年続けて参加している人もいれば、新卒1年目で参加して、交流の幅を広げるきっかけを得た人もいるという。

試合中はゴールを目指し、もしくは体を動かすことを楽しみ、試合が終われば会話を楽しむ。そんな、“スポーツの原風景”ともいえるものが享受されているイベントなのである。

試合や大会の結果によって、できることと、できないことが発生するスリルと楽しさが常に混在する、スポーツ業界。

『SPORTS MAKERS CUP』は、そんなスポーツ業界で働く人々にエネルギーを与えたり、またはチャージできたりする機会になっているようだ。

最後に、『SPORTS MAKERS CUP』の将来に向けた展望を、鈴木さんに聞いた。

「『SPORTS MAKERS CUP』には、『サッカーが好き』という共通点だけでなく、『日本のサッカーを盛り上げたい』といった想いを持っている方々が多く集まっています。そうした想いもありつつ、スポーツのエキサイティングな部分に最前線で触れているメーカーの社員として、今後も『SPORTS MAKERS CUP』をリアクティブに進化させていけたらな、と。そして今回のように、イベント自体が多くの人々の目に触れるようになって、スポーツをするのが好きな人にも、あるいはスポーツを観るのが好きな人にも、スポーツメーカーという業界に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。スポーツ業界を盛り上げるために、参加者である自分たち自身が『SPORTS MAKERS CUP』を楽しむことを忘れずにやっていきたいです」

著者

akira
akira
ライター。トリコロールと21番にこだわりがある。主な寄稿歴は『footballista』『スポーツナビ』『WE Love 女子サッカーマガジン』など。ポッドキャスト番組『Footrico!』モデレーターも務める。在米経験あり。サッカー以外の趣味は旅行、語学、映画鑑賞、ファッションなど。

Feature
特集

Pick Up
注目の話題・情報