Jr.ウインターカップに向けた “中間テスト”は真剣勝負
8月13日から14日にかけて武蔵野の森総合スポーツプラザで「2024 bjカップ U15 in TOKYO WEEK2」が開催された。一般社団法人バスケットボールジャパンアカデミーが主催するこのbjカップは、各世代の地域と地域の交流の機会創出を目的とした強化大会である。
今大会は一発勝負のトーナメント形式で、男子は24チーム、女子は18チームの中からそれぞれの優勝チームを決める。レバンガ北海道や宇都宮ブレックスなどのBリーグのユースチームに、KAGO CLUB(大阪)やREDEEM(長崎)などのクラブチーム、そして全国大会常連の春日部市立豊野中学校を母体とするHANABUSA T.B.CおよびHANABUSA FALCONS(埼玉)と、それぞれ異なる特色や地域性を有するチームが垣根を超えて全国各地から参加した。
大会の運営責任者は本大会の意義を次のように話す。
「中学バスケの集大成を1月のJr.ウインターカップとすると、このbjカップは“中間テスト”的な意味合いを持っていると感じます。この大会が終わった後にJr.ウインターカップ本戦に向けた予選が始まっていくので、チームとしての課題を見つけたり成熟度を高めたり、遠征のノウハウを経験する場として、各チームさんはこの大会を活用されていると思います。
そして、武蔵野の森スポーツプラザはJr.ウインターカップの開催場所でもあります。勝って地元に帰れるチームは男女それぞれ1チームずつですが、勝ったチームは『もう一度ここで勝つために戻ってこよう』、残りのチームは『次こそは勝つためにここに戻ってこよう』というモチベーションで臨まれており、この会場で開催できる意義も大きいと感じています」
総勢46チームが参加した今回、サブアリーナを含めた6コートをフル活用し、2日間で交流戦を含めて84試合が行われた。全国有数の強豪チームと戦える機会が用意されている他、決勝以外に3位、5位、7位の決定戦もあり、公式戦ではない大会だからこそ可能な、有意義な側面と言えるだろう。
実際に、男子準決勝と同時刻に行われた男子5位決定戦進出チームを決めるTSC SENDAI vs 横浜ビー・コルセアーズU15の一戦は、残り1分で43-43の同点という非常に拮抗した試合展開で、ベンチとアリーナ席の応援を含め大変な盛り上がりを見せていた(43-46で横浜BCが勝利)。
中学生離れした組織力が決め手になった女子決勝
女子決勝はSprite(埼玉) vs KAGO CLUB(大阪)。序盤は互いに固いディフェンスを見せ、なかなか得点が生まれない。KAGOの#2岩山友香がスピード豊かなドリブルでチームを牽引して流れを引き寄せ、0-7とスコアを広げた。対するSpriteは#11井川夏希のゲームメイクを中心に盛り返しを図る。#4上岡ひなたの3Pを皮切りに反撃に転じ、#7大竹琉夏の安定した3Pなどで逆転。そこからは一進一退の攻防が続き、30-20で第2クオーター(Q)が終了した。
第3Qに入っても、岩山のドリブルを中心に攻めるKAGOと、巧みな連携から様々な選手が得点を狙うSprite、という構図は変わらないままゲームは進む。1,2年生のみで構成されているSpriteながら、徐々に岩山の個人技にも対応できるようになり、リバウンドの強さや豊富な得点パターンでリードを譲らない。残り3分強で大竹が3Pを沈め57-40。ほぼ勝敗が決した状況になり、両チームは出番の少なかった控え選手をコートに送り出して経験を積ませ、61-43の最終スコアでSpriteが優勝を飾った。
試合後、ベンチ前から熱心にコーチングの声を送っていたSpriteの遠藤純哉HCに話を聞いた。
「試合の入りはなかなか難しく、厳しい試合でした。うちは背が高い子や物凄く上手な子がいるチームというわけではないので、強みであるリバウンドを1つずつ丁寧に積み上げていき、1対1の場面でもよく守ってくれたことが勝ちに繋がったかなと思います。準決勝から交代していない選手もいて苦しかったと思いますが、最後までよく走り、 一生懸命やってくれました」
大竹琉夏(大会MVP)や上岡ひなた、井川夏希という中心選手に頼るだけでなく、チームとして複数の得点パターンを確立させ、3年生無しの編成で優勝したSpriteの組織力は見事の一言に尽きる。その要因はどんなところにあるのだろうか。
「“シュートの無駄遣いをしない”、“いいシュートを打とう”ということはチームで確認し合っています。誰がどこで打つのかをハッキリさせて、『それが入らなければもう仕方ないから、切り替えてリバウンドに行こう』という意識で合わせようと心掛けています。
あとは“SPLYZA Teams”という試合の振り返りアプリを4年くらい前から導入しています。試合映像に対してコメントを書き込める機能があるので、試合後に選手それぞれが各シーンで感じたことを自由に描いてもらって、その後全体ミーティングで取り上げ、チームとしての改善を図っています」
最後に、全国各地からハイレベルなチームが集まった今回のbjカップの感想を伺った。
「どこもレベルが高いチームで、最初に組み合わせ表を見た時はまさか決勝まで進めるとは、ましてや優勝できるとは思ってもいなかったです。昨日のRED FROGS(大阪)さんや今日のONE(静岡)さんとの試合も、ギリギリのところで運良く勝てたという展開でした。1回戦のサンシャインズ(奈良)さん、今日のKAGOさんも含め、全国の強いチームとこういう大会で戦わせてもらって、大変貴重な経験を積ませていただきました」
激闘の男子決勝戦
男子決勝はレバンガ北海道U15と宇都宮ブレックスU15というBユース同士の戦いとなった。#00山本夏生に#0小坂悠陽、#86島春馬という強力な攻撃陣を擁すレバンガの猛攻が序盤から炸裂し、一時は15-2までスコアが広がった。対するブレックスは、中学生ながらカリスマ的なオーラを放っている#17川岸夏椰人とアジリティに優れた#74岡部月輝を中心に盛り返し、28-25というスコアで第2Qを折り返した。
レバンガの切れ味抜群のドライブはなかなか止められないものの、ブレックスはオフェンスリバウンドに反撃の糸口を見出し、45-40で第3Qが終了。第4Q、ブレックスのオフェンスミスを見逃さず、残り4分で56-49とレバンガがリードを広げる。しかし諦めないブレックスは連続3Pで56-55まで迫り、残り1分7秒で#30佐々木真旺がシュートを決め、56-57とこの試合初めて逆転に成功した。
島が3Pを決めて再びレバンガが逆転するも、佐々木が果敢なドリブルからファウルを誘い、フリースローを獲得。1本目は外したが2本目を決め、59-58。残り33.6秒、川岸がファウルを獲得し、2本目を決めて59-59と同点に。残り18.5秒、レバンガの#11高橋大志がファウルを獲得し、1本目を決めて60-59と再びリード。息つく暇もない緊迫した試合展開が続く。
残り7.6秒、ブレックスのエース川岸がドリブルでゴール下に切れ込む。シュートは外してしまったものの、自らのリバウンドからファウルを獲得し、1本目を見事に成功させる。プロアマ問わず誰しもが緊張してしまうこの場面で、2本目のフリースローもしっかりと成功させ、60-61とこの試合2回目のリードに成功。小坂のドリブルを凌いだブレックスがそのまま逃げ切り、優勝を勝ち取った。
圧倒的な個人能力を誇るレバンガの勢いに怯むことなく食らいつき、最後の最後に逆転したブレックスのチーム力は賞賛に値する。また、メンタルの強さを見せつけた川岸の大会MVP選出は、この会場にいる誰しもが納得するはずだ。
レバンガとしてはほぼ試合をコントロールして進めたが、最後にまくられてしまい、悔しさが残る敗戦となった。しかし、各選手のポテンシャルの高さは凄まじかった。きっとこの負けをバネにして次へと進むだろう。
悔しさの涙を流すレバンガの選手たちと喜びの涙を流すブレックスの選手たちの対比が印象的であり、ブレックスの川岸がMIPに選ばれたレバンガの山本を慰めながら健闘を讃えていたのは、今大会の持つ価値、ひいてはスポーツの素晴らしさを体現していた。
試合後、ブレックスを率いた本谷篤司HCに話を聞いた。
「前半は個の部分で勝負してしまい、そこは北海道さんの方がやっぱり上回っているので、『後半はチームで戦おう』ということを話して、やっとパスとボールと人が回ってきた印象でした。このワンゲームで、チームも各選手も大きく成長したんじゃないかなと思います」
このbjカップの感想、そして今後の目標について、次のように語る。
「初日に3試合、今日は2試合の計5試合を戦ったんですけど、 全国の強豪チームが集まる中で本当に有意義なゲームができました。この大会を通して毎年大きく成長させていただいているので、運営の方には感謝しかないなという思いです。ありがとうございます。
この優勝がゴールではないですし、この5試合でチームとしての課題が沢山見えたので、この現状に満足せずに進んでいきたいです。北海道さんの方がオープンなシュートが打てていましたし、それが入るか入らないかで勝敗が分かれるスポーツなので、打たせないための方法を今後も練習していかないといけません。選手たちにはプロの選手を目指してこれからも引き続き頑張ってもらいたいですし、そこに向き合って私も頑張っていきたいです」
未来のスーパースターを見つけに
無事に全行程が終了し、今回のbjカップ U15 in TOKYOが幕を閉じた。今回のU15だけでなく、U12からU18までの幅広いカテゴリー、そして東京だけでなく静岡や福島など様々な地域で開催されているbjカップの存在価値を、改めて大会運営責任者に聞いてみた。
「bjカップを開催し始めた頃は認知度も高くなく、こちらから各チームさんに出場をお願いしていたのですが、昨年のW杯や先日のパリオリンピックも含めて日本バスケ界が大きく変わってきて、私たちも上手くその時流に乗ることができたのかなと思います。
サッカーと同じように昔からバスケにもクラブチームは存在しましたが、以前は部活動が主流でクラブチームは少し特殊な存在だったので、いろいろと苦労されてきた部分も大きかったはずです。私たちはそういう方々と一緒に切磋琢磨したり、支えてもらいながら進んできました。近年、やっとBユースやクラブチームの存在が当たり前の時代になり、彼らが参加する大会としてbjカップが認知されていったと思います。
以前は関東のチームが多かったのですが、今回のレバンガ北海道さんやREDEEMさん(長崎)のように、いまは全国から参加してもらっています。その結果、日本中のチームや指導者間の交流が生まれ、大会終了後に練習試合を組んだり、という事例ができてきたことも非常に嬉しく感じます。
運営面で言えば、大会に参加される各チームさんの宿泊先や周辺飲食店への利益還元も含めて、私たちがモットーにしている地域交流への貢献が多少なりともできているのかなと思います。
そういった背景の中、ありがたいことに現在は参加を希望されるチームが増え、抽選形式を採用していますので、出場を希望される方々の期待に応えるためにも、もう少し開催回数を増やしていく努力をしていきたいです」
各試合のレベルの高さや応援席の盛り上がり、大会公式YouTubeチャンネルで試合ライブ配信を行なっていることなどを含め、競技面でも運営面でも非常に質の高い大会になっている。ただ、間違いなく言えるのは、少しでもバスケに興味がある人であれば、ライブ配信ではなく直接会場に足を運び、生で観戦した方が何倍も楽しいはず(しかも入場無料だ)。近い未来にBリーグプレイヤーや日本代表になるかもしれない選手たちの中学生時代の輝きを間近で観られるのは、この上なく贅沢なことなのだから。